
と言っても越路吹雪ではなく、マネージャーの岩谷時子が主人公。
うちのおじいちゃんが「越路吹雪はホントにいいねぇ」とよく言っていたので、その名が幼少の私の心に刻まれた。
学生時代、友だちに「郷ひろみの『小さな体験』って歌に、『初めて二人が出会った喫茶店にカナリアがいたね』って歌詞があったよね。あのカナリアは絶対黄色だよね。あの歌を聴くと、カナリアしかもう浮かばないよね。すごくない?」と言われ、その作詞をした岩谷時子の名前が、文学少女の私のハートに刻まれた。
そしてそして、中年になって歌舞伎の面白さを知り、まだ生では見たことがない玉三郎を見たい見たいと念じていたら、なーんと、この本には青年期の素顔の玉三郎がいっぱい出てきた!!!
ちなみに西城秀樹も1、2行出てきた。『デュエット』で鳳蘭と共演してるからだけど。
大学進学するとき、私は「レンガ造りのすてきな校舎が並んでる大学」を基準に学校を選んでいた。もちろん神戸女学院も候補に入っていた(←岩谷時子の母校)。でもそこではなく、別のキャンパスが美しい大学を受験した。受験前夜に武庫川沿いのホテルに宿泊し、「嗚呼、もし私がこの学校に受かったら、きっと宝塚をいっぱい見るにちがいない」(←岩谷時子は大の宝塚ファンだった)と川を見つめながら胸を膨らませていた。あの頃の私は人生をなめていた。
この私の意識の流れがこの一冊に詰まっていると言ってもいい。