
そもそも2月末に突如日本に行くことにしたのは、坂東玉三郎を見るためだった。二月大歌舞伎の千穐楽に間に合うように飛行機に乗り、昼と夜、合わせて8時間、歌舞伎を見た。13時間のフライトの後の8時間はキツイ。休憩時間は血流をよくするため、歌舞伎座内を歩き回った。昼もなかなかの座席だったが、夜の部は中央前から3列目。間近で玉三郎の「羽衣」の舞を見た(相手は勘九郎)。年は取っても美しい。大変貴重なものを見ている気がした。「羽衣」のようなお話は、男役さえぴちぴちに若ければ、女役は少々お年を召していても成り立つ。それはそれで妖艶だ。
舞は言葉がわからなくても楽しめる。海外でも玉三郎の知名度が高いせいなのか、外国人観客多し。彼らの様子も気になり、ちらちらと見ていたが、やっぱり「舞」のない歌舞伎になると舟を漕いでいた。
本当なら満席に近いはずなのに、コロナ騒ぎで半分くらいしか観客席は埋まっていない。おひとり様で見ていたので、隣のおひとり様に声をかけてみた。結果的に、話に花が咲き、最近読んだ玉三郎についての本に、「玉三郎はあまりにも若い役はもう似合わないから封印しているって書いてありました」と言うと、「ええー!? この間、白雪姫の役を演じてましたよ!」と…… ま、あの本は2010年刊行だからな。
お隣さんは、「3月も日本にいるなら、明治座のXXXを是非見てほしい」とおすすめまでしてくれた。日本に住んでいるならこの人と観劇したい!とすら思った。おすすめ情報のお礼にと、三越デパートでもらったマスクを2枚差し出すと、「いいんですかっ!? マスクは今の日本では、貴重かつ希少なアイテムなんですよ!」と劇場に響き渡るような声で返事が返ってきたが、受け取ってもらえた。
3月は明治座、あるいは京都の南座へと私の野心は膨らんだが、それはつかの間のこと。ありとあらゆる劇場が閉鎖になってしまった。しかし、二月歌舞伎の千穐楽に間に合っただけでもラッキーだった。
観劇の後、ひとりで遅い夕飯を食べることになり、前から一度やってみたかった、「誰にも口を挟まれることなく、好きなだけ好きなようにお寿司を食べる」のをすしざんまいで決行。ま、あの価格帯ならできることだといえよう。少しお酒も飲んだし、おさしみも食べたが、一人で8000円分食べた。最後にすし職人に向かって「今日食べた中でベスト5を食べてからお勘定をする」と宣言すると、少し驚いたようだった(もちろん何も言わない)。あとで、友人たちにこの話をしたら、「すしざんまいでその金額とは、相当食ったんだろう」と驚かれたが、なかには、「いい話だ」と言ってくれる人もいた。