コロナ一色で終わってしまった2020年。年の瀬に一年を振り返ってみようかと思ったら、妙なことを思い出した。
10年以上も前の出来事だと思う。私は家人と赤坂のイケイケな感じの店にいた。私たちの後ろには男3人女3人のグループがいて、座り方からいって合コンだった。ま、それで「合コン文化」の説明というか、盗み聞きをしながら家人に実況中継をしていた。
終電の時刻が近づいたらしく、みんなが連絡先を交換しだし、「今度一緒にゴルフに行こうね」という社交辞令が交わされていた。が、一人、そのような情報交換を固辞している女がいた。これまでの会話の流れからいって、その女は比較的男たちに人気だったようで、男たちから相当にしつこく「何らかの直接連絡を取る方法」を訊かれていた。終電の時間は迫るし、男たちをかわさなければならないしで、切羽詰まったのだと思うが、
「あたし、実は既婚者なんですぅ」と女は言った。
ざわめきが波のように広がり、それまで背を向けて盗み聞きした私も、少々の時差をつけて振り向いた。若い時の木村佳乃風の、清楚な感じの、だけど私の友人の中には絶対いないようなタイプだった。
合コンがどのようにお開きになったのか、私はショックのあまり覚えていない。彼女が女の友人とそそくさと駅に向かって行く姿を目で追ったことしか覚えていない。
人がいなくなって静かになった店で、「ああいうのがいちばん恐ろしいタイプだね」と私はもの知り顔で言うと、「なんで?」と訊かれた。ま、私も本当はよくわかっていないで適当なことを言っただけなのだが。いろんな意味で罪づくりじゃないですか?
この一年間、こういう機会がまるでなかった。人々のドラマを盗み聞きする日が一日も早くやってくることを願ってやまない。