Back to San Francisco

たったの5日間だったけれど、古巣のサンフランシスコへ行き、毎日毎日友達としゃべり倒して心の洗濯をしてきた。

何に驚いたって、サンフランシスコのダウンタウンの空洞化。観光客と通勤人ばかりだったのが、コロナで消えたからなのだけど、そのせいでお昼ご飯を食べる店も、あらゆる小売店が忽然と姿を消していた。それでも、2021年よりはましになったらしい。レストランも9時にはさっさと閉まるところが多いので、夜の食事が遅めの我々にはきつかった。私は日中遊び歩いていたが、夜は家人(出張中)と食事していたのだ。

ダウンタウンから離れ、普通に人が暮らしている住宅地はあまり変わっていない感じだった。場所によるのだろうか? まあ、少しは安心した。

20年以上も会っていなかった人たちとの再会もあり、その人たちが私より一世代上とあって、「自分は10年後、こんな感じになるのかな?」と想像。と同時に、ちゃらちゃらして馬鹿っぽかった昔の私を覚えている人に会うのが気恥ずかしかった。

カリフォルニアにいると、テスラが話題に登る確率がとても高い。カリフォルニアに会社も工場もあるから、走っている台数もトロントとは比べ物にならない。特に白のテスラは多く、お迎えに来てもらうときもナンバープレートを教えてもらわないと、「どのテスラ??」と混乱するほど。

そんな世界をよそに、友人たちと刺繍屋さんや本屋さんに行き、推しのファンミーティングのために海外遠征したばかりで興奮冷めやらぬ友人の話を聞き流し、茶道の仲間に一服立ててもらいながら、先生の海外出張稽古の計画を聞いていると、昔の自分に戻ったような気がした。うそみた~い!この街を離れて、12年も経っているというのに!

おまけ話

黒の分厚い生地で出来たシャツドレスのようなワンピを着て、サンフランシスコ国際空港のセキュリティをくぐったら、「それはドレス?コートに見える」と言われた。脱げないと言うと、隅々までボディチェックされた。

「そのドレスはコートにか見えない!ここを通るときは、毎回ボディチェックするからな!」とおばさん警備員に威嚇された。私は聞こえてないふりして、その場を去った。

去りながら思った、「付け毛のことは何も言わないんだ……」

My Anna Madrigal

2021年5月1日。私の大好きな「人」が亡くなりました。亡くなったのはオリンピア・デュカキスですけど。私の愛読書『Tales of the City』(ドラマ化、映画化もされている)の主人公のひとり、アナ・マドリガルを演じていたのがオリンピア・デュカキスだったのです。邦題は『メリー・アン・シングルトン物語』です。

アナ・マドリガルは、サンフランシスコのロシアンヒルにある、28 Barbary Laneという架空の場所にあるアパートの大家で、男性から女性へ性転換をした人です。アパートの大家になる前は、書店をやっていたので、とても文化的で洗練されています。トランスジェンダーとして先陣を切って性転換をし、いろんな苦難をひとり孤独に乗り越えていった経験があり、人の心の痛みがよくわかるから余計な口出しはしません。男性として家庭を持っていたけれど、その家族を棄てて女性になり、差別されながらも女性として男性といろいろな恋に落ちた経験のあるアナ・マドリガルは、「何にも反対しない」のです。

アナ・マドリガルのアパートにはいろんな問題を抱えた人々がやって来ます。その一人が、メリー・アン・シングルトン。彼女は性的マイノリティではないし、中西部出身の白人女性とメインストリームの人なのですが、自分探しにサンフランシスコに来て、28 Barbary Laneに居着いてしまう。なんたってマイノリティの心情など今まで考えたことがないような「善人」のメリー・アンなので、よかれと思ってやることがいつも裏目に出る。でも、アナ・マドリガルはそんなメリー・アンのよさを見抜いているのです。三重県からサンフランシスコにやってきた私は、映画版 『Tales of the City』 を観て自分とメリー・アンを重ねてしまい、「いつもアナ・マドリガルが私のことを気に掛けてくれている」と勝手に思い込んだのでした。ちなみに、私が生まれた町はアメリカ中西部のある町と姉妹都市なので、多分、文化的に似ているところがたくさんあるのでしょう。

『Tales of the City』 の中で、アナ・マドリガルは自分が丹精込めて作ったアパートの庭で、星を眺めながら静かに死んでいきました。

ギリシャ系アメリカ人のオリンピア・デュカキスは、ギリシャの文化とアメリカの文化に挟まれ、どっちにも馴染めずに苦労したそうです。それに、あのギリシャ彫刻っぽいしっかりとした鼻梁。アナ・マドリガル役に抜擢される要素をたくさん持っていました。 5月1日の朝、オリンピアも静かに平和に死んでいったようで、何よりです。

ネットフリックスで配信されている、新しいほうのドラマは古いドラマの同窓会仕立てになっているのと、話がちょっと小難しい感じになっています。1993年版の映画か、古いほうのドラマシリーズがエンタメ要素が強いのでお勧めです。

ツイッター本社

Twitter HQ

毎年恒例のツイッターランチに行った。本社ビルのセキュリティは厳しい。あのような、炎上を招きやすく、ある人がある日突然世間からいわれのないバッシングを受けることもあるツールを作っている会社なので、恨みを持っている人も多いのかもしれない。それに、本社ビル周辺には浮浪者が非常に多く、変な人がふらふら入ってこないようにしているのかもしれない。

毎年ゲストリストに名前を入れてもらい、受付で写真入りIDを提示するように言われるのに、いつも運転免許証もパスポートも持ってこない。いつの年だったか「何も持ってないのでクレジットカードでもいいですか?」と言ったところ、「クレジットカードはIDのうちに入らない」と一蹴された。それでも、クレカを2枚見せて粘り勝ちしたことがある。

今年もまたクレカで切り抜けようとしていたら、「あなたが本当にあなたである証はどこにもないし、私はあなたがあなたであることを知りえない」といかつい受付の黒人女性に睨まれた。「ごもっとも」としか言いようがない。優秀な受付さんだ。

ちなみに、ツイッター本社周辺の浮浪者の多さと人糞の凄まじさはすごい。聞いてはいても、あの場所に行かなければ危機感を覚えない。マーク・ザッカーバーグの顔は毎日のようにニュースで見ていても、サンフランシスコの浮浪者の現状はトロントにいると見えにくい。何事も「現地に赴く」ことには大きな意義があるのだ。2011年(私がカナダに引っ越して1年後)と比べると、道に落ちている人糞の数は5倍から6倍に膨れ上がっているらしい( https://www.vice.com/en_ca/article/a3xdae/more-people-pooping-in-san-francisco-than-ever-all-time-high-vgtrn )。

ランチの後、友達と歩いていると、あまりの浮浪者の多さにオープンしようにもオープンできないショッピングセンターの入り口の前に、巨大な人糞が2つ並んでいた。

「これは、二人の人間が並んでしたしたものなのか。それとも、一人の人間が小分けにしたものなのか」

と友達が自分の息子に訊いていた。そんなことを考えもしなかったと私は心の中で感心していたのだが、

「そんなことは考えたくもない」

と息子君は答えた。この年になっても幼稚園児の精神構造をしていると言われがちな私からみると、非常に聡明で大人な答えをしていると思った。

バッグ置き忘れ事件

San Francisco Bay

1年ぶりのサンフランシスコ。気候的には10月が最高。友達との再会も最高。でもカバンをシェアライドの車の中に置き忘れた。慌てて降りたのがいけなかった。レストランでお勘定するときになってようやく2個あったカバンが1個しかないことにようやく気づいた…… 当然貴重品が入っているほうがない。

同行の友達が呼んだリフトだったので、彼女を介してドライバーやリフトに連絡するしかない。リフトの対応は速やかで、ドライバーも最初の電話には出てくれたけど、私が気づくのが遅かったため、既に遠くに行っている。それに彼の英語が拙い。

ちなみに、紛失物の問い合わせは リフトのアプリからできる。そうすると、リフトからドライバーに連絡が回り、ユーザーがドライバーに 直接連絡できるようにもなっている。ただ、リフトを間に挟んで紛失物を回収しようとすると、リフトに15ドル払うことになるうえ、その日のうちに回収できない。旅行者の私は、直接ドライバーにカバンを持ってきてもらう道を選んだ(友達のためにも長引かせられない)。

実は、カバンをなくす直前、友達にお金を返すため300ドルを銀行から引き出していた。その現金がカバンの中に入っていた。アメリカでそんな大金をわざわざ返しに来るお人好しドライバーがいるのか?! ピザを宅配注文しても配達途中でピザが行方不明になることもある国なのだ! レストランの帰りに乗ったリフトの運転手に聞いてみると、「カバンを返してくれるかどうかは人による」らしい。300ドルの現金入り財布をその日のうちに返してもらうには、魅力的な「報酬」を提示するしかない!!  50ドルと提示してみた。

不幸中の幸いで、私は友達の家でスマホを充電させてもらっていて「ダブル」の置き忘れをしたため、友達の家からウーバーを呼び、自力でホテルに戻ることができた。

しかしドライバーからは、なかなか返事が来ない。英語のメッセージの解読や返信に時間がかかるのかもしれない。私の頭の中では、この人は小さな子供を抱えたお父さんで、子供が寝付くまでは財布を返そうにも返せない、というシナリオが出来上がっていた。この日のうちに返事は来ない…… 私は諦め、私のために奔走してくれている友人にもそう伝え、クレジットカードや銀行カードにロックをかけ、スマホから離れてネットで遊んでいた……。

1時間ほど経っただろうか。スマホにふと目をやると、メッセージの着信数が半端ない。友達から怒りの叫びがいっぱい届いている。ドライバーと連絡がつき、私のホテルに持ってきてくれる、いや、もう既に持ってきてくれた模様なのだ。

慌ててフロントデスクに行くと(走れないので足を引きずり、つんのめりながら急いだ)、フロントのお兄さんが「ああ!」と言ってカバンを出してきてくれた。「ドライバーに本当に50ドルあげるって言ったの? 本人のいないところで財布を開けるわけにはいかないけど、時間がないからって、僕の目の前で50ドル抜き取っていったよ」

あのリフトのドライバーは、友達が送ったメッセージをフロントデスクのお兄さんに見せたらしい。実はとても正直者で、いい人だったのだ。

私は今までずっとウーバー派だったけど、これを機にリフトに乗り換えることにする。さようなら、ウーバー。こんにちわ、リフト!