Pick my own fight

ブログを1週間連続で書くプロジェクト、今日が6日目。あと1日。

私はアカデミー賞授賞式を友だちと集まって観るか、パブに出かけてパブリックビューイングをするのが好き。思いきり楽しむには、ノミネート作品を観てから挑むのがいちばんだけど、最近、それができていない……

2019年アカデミー賞授賞式のパブリックビューイングでのこと。コマーシャル中に行われた映画クイズの時間に、私はあからさまな人種差別に遭ったことがある。

「映画『プリティ・ウーマン』でジュリア・ロバーツは主演女優賞を獲ったでしょうか?」

正解を知っている!これはいただき!と思い、広い店内の後ろのほうから勢いよく挙手すると、司会者のドラァグの人が「そこの黒い服を着たアジア人!」とあててくれた。ところが、私は不正解だった。その前に答えて不正解を出した人と同じ答えを繰り返したらしく、司会者に「オイオイ、場が盛り下がる!」みたいな顔をされ、「あなたのその細い目じゃ、この場で何が起きてるのかわかんないんでしょうね」と言われてしまった。マイクを通して。

何も言葉が返せなかった。一緒にいた友だちは、正解を検索するのにスマホにかじりついていて、何も耳に入っていない。店内にいた人たちも「せっかくの楽しい時間が、ああ、めんどうくさいことになりそうで嫌だ……」「売られた喧嘩を買うか買わないかは、アンタ次第」という態度を決め込んでいて、誰も何も言わなかった。

自分がブラックホールになるのを感じ、マイクを手に持った人と喧嘩したって勝てるわけない、と思って引っ込んだ。

当時、クリエイティブライティングのコーチングを受けていたので、コーチにこの話をすると、コーチは「なぜ声を上げななかったの!?」と自分事のように怒った。性的にも民族的にも、というか、どこをどう切り取っても「マイノリティ」でしかない人だったので、いつも肩を怒らせて闘うタイプの人なのかもしれない。あまりにも私がおとなしいので、「あなたが何もしないなら、私がその店に電話をかけて抗議する!電話番号を教えて!」と過激なことを言いだす始末。

「いや、これは私の闘いであって、あなたの闘いじゃないから、余計なことしないで!」

私は必死にとめた。自分の身に起きたことなのだから、他人にかき回されたくない。余計にややこしくなったら、どうしたらいいかわからないじゃないか!!

「じゃあ、この経験をエッセイにして書く」と私はコーチに約束して、実際に書いた。コーチもそれを気に入ってくれて、発表しようと言ってくれた。

で、ある編集者に送った。

数日後、編集者から「編集入れたよ」と連絡がきた。ドラァグの司会者の人称代名詞が「they」に修正されていた。それを見て、めらめらと怒りが湧いた。私はあえて「he」を使ったのだ。それは私の静かな抵抗で、「そっちが差別するなら、私も!」みたいな、目には目を!のつもりだった。それが正しいことなのかどうかは別にして。

「あの人称代名詞はすごく重要なんだ!勝手に変えないで。あれはプロテストなんだから!」とメールを書きなぐった。

意見は決裂。文章は未発表。人種差別を受けたこと自体より、あとから来た二重三重の余波のほうがもやもやする、忘れられない事件だった。

今日のハイライト

『ひとりの双子』を読み終えた。これについてはまたあとで。

Calypso

積読状態だったのをやっと読みました。相変わらず面白かったですが、 デイヴィッド・セダリスも年を重ねているのだなと思うような話が多かったです。家族のことがいろいろと書いてあり、日本のこともわりと登場します。特に「The Perfect Fit」は、デイヴィッド・セダリスがきょうだいと東京へ遊びに行き、恵比寿、銀座、青山、渋谷で変わった洋服を買いまくる話です。このエッセイはニューヨーカーにも掲載されたので、読んだ人も多いのでは。彼は日本で買った変わった洋服を着て、様々なイベントに登壇します。私が参加したトロントのイベントでも、東京で買った男性用キュロットをはいていました。実は私も日本に行くと不思議な洋服を買ってしまうので、Dover Street Market で買ったギャルソンの服を着てイベントに出かけました。「私もですよ!」と本人に話しかけるためにです。『Calypso』は、このときに買いました。

残念ながら、デイヴィッド・セダリスは見知らぬ読者とでも長々と話をしながらサインをするので、私は時間切れでサインをもらうことも、話しかけることもできませんでした。彼がこういうイベントでどれくらい読者としゃべるのかは、この本を読めばわかります。

たとえば、この本のタイトルにもなっている「Calypso」というエッセイ。あるとき、デイヴィッド・セダリスの顔に脂肪腫ができ、それを切除することになったのですが、彼は切除した脂肪腫をノースカロライナ州に棲む、ある「スッポン」に食べさせようと考えます。しかしアメリカでは、医者が手術で患者の体から切除したものを患者に渡すことは法律で禁じられています。「どうしてもスッポンに食べさせたい」と諦められないデイヴィッドは、あるブックイベントでその話を披露したところ、そこにいた読者の一人に脂肪腫を切除してもらい、とった脂肪腫を冷凍便で送ってもらう話を付けます。その結末は、この本を是非読んでもらいたいです。抱腹絶倒です。

デイヴィッド・セダリスはダークなユーモアあふれる書き手なのと、本読みも上手なので、オーディオブックをお勧めしたいです。『Calypso』のオーディオブックは、ライブの読書会を収録したものがいくつか入っていて、観衆の笑いにひきずられてライブ感を楽しめます。

デイヴィッド・セダリスの本は一部日本語訳が出ているのですね。訳すのがとても大変だったのじゃないかと……