Perversion of Justice

著者はアメリカの地方紙「マイアミ・ヘラルド」のジャーナリスト、ジュリー・ブラウン。ジェフリー・エプスタイン逮捕にいたるまで、彼のセックス・トラフィッキングの犠牲者たちを説得して地道に取材を続けた過程がわかる本です。

アメリカの司法制度がわからないと難しい点もありますが、それをすっとばして、エプスタインの斡旋で16歳未満の女性たちとセックスをした「世界的に有名な男たち」、「アメリカの諸領域で重職に就いている男たち」の名前はもちろんのこと、エプスタインを長年にわたり法の裁きを受けさせないよう、特別な計らいをした人々の名前を心に刻むだけでも価値があるかもしれません。それにしても、こういうスキャンダルが起きるとすぐに名前が出てくるビル・クリントンやドナルド・トランプのような人たちがいるかと思えば、バラク・オバマのように絶対に名前が出てこないクリーンな人はいるんですよね。

この本に魅力を添えているのは、著者のジュリー・ブラウンがワーキング・シングル・マザーであって、元夫もあまり頼りにならない状況で二人の子どもを育て、請求書とにらめっこしつつ、日々の生活に苦労しながら、アメリカの暗部を暴いた事実かもしれません。エプスタイン事件の取材が本書の大筋ならば、著者の私生活の苦労が副筋になっていて、人間味を感じます。

司法制度を無視できるだけの富を持つエプスタインのゴージャスな生活を垣間見たいなら、ネットフリックスの『ジェフリー・エプスタイン: 権力と背徳の億万長者』がいいかもしれません。でも私は、ジュリー・ブラウンに投げ銭するつもりでこの本を買いました。なので、読んだのは英語版です。

原題になっている「Perversion of Justice」という言葉が、著者にとってどれだけ大切だったかが原書には書かれています。エプスタインそのものが怪物ですが、そういう存在を許してしまう「歪んだ司法制度」を暴いた本だから。

『ジェフリー・エプスタイン 億万長者の顔をした怪物』という邦題で、日本語訳も出ています。

Fair-skinned

英語で白人を指す単語は「White」ですが、肌の色を「色白ですね」と言いたい場合には、「fair-skinned」がぴったりです。

私は、巣ごもり生活中、ネットフリックスからお勧めされるまま、アメリカの犯罪史を飾る国内テロや犯罪の映画やドラマ、ドキュメンタリーを見ていました。テッド・バンティ、ブランチ・デヴィディアン、アトランタオリンピック爆弾テロ、オクラホマ爆弾テロ、ユナボマー、ジェフリー・エプスタインと、犯人はすべて白人男性。そして、みんななかなか逮捕されない。Black Lives Matter を鑑みると、こういう事件の犯人は怪しいというだけで警官に殺されることがないうえ、犯罪の規模も大きいので、複雑な気持ちになります。しかもジェフリー・エプスタインのドキュメンタリーは、経済格差が司法にもおよぶことを決定的に見せつけます。というか、アメリカの超富裕層の金持ちぶりを映像でまざまざと見せつけられます。

Black Lives Matter のデモが全米で広がり、今や周縁が過敏になりすぎて、いろいろな人がいろんなことを言いだしています。『風と共に去りぬ』がストリーミングで配信されなくなったり、90年代の代表ドラマ『フレンズ』のクリエイターが「白人ばっかりのキャストだったよね、ごめん」と謝罪したあたりから、#MeTooで食傷気味なっていた頃を思い出すような状態に私は陥っています。あの頃は、オール白人、オール黒人、オールアジア人のキャストが当たり前の時代だったのですから、もういいじゃないですか。そんなこと言ったら、『セックスアンドシティ』なんて…….

そうは言っても、大規模な抗議運動っていうのは同じスローガンを掲げていても多様な意見を内包するものだし、いつもこんなふうに闘いながら現実的な解を求めようとするアメリカは好きです。