ウソ日記3

山形でトミヤマユキコさんの講座がある。7日間ウソ日記を書くという課題らしい。本当は受講したかったけど、できないから、代わりにここに7日間ウソ日記を書く。全部がうそっぱちとは限らない。

5月24日水曜日

この頃、若者は「大人になるための」旅に出ないらしい。昔のアメリカ青春映画の定番といえば、思春期のややこしい事情を振り切るために、アメリカ大陸を中古車に乗って横断するパターンが多かった気がする。そういえば、今の映画は「どこですか~、その国は!?」とファンタジーの世界に行ってしまうことが多い気がする。唯一、どこかへ旅に出るという成長物語のテッパンを守っているのは、『はじめてのおつかい』くらいじゃないか。

私の「はじめてのおつかい」はハードルが高かった。近所の八百屋に何かを買いに行かされたのだが、財布を渡されず、「ツケておいてください」と言え、と言われたからだ。

「それってどういう意味?」と訊いたが、「とにかく、そう言えばわかる」の一点張りで、手ぶらで家を追い出された。

買わなければならない人参はすぐに見つけたものの、「ツケておいてください」の一言ですむのかどうか、その日はじめて聞いた日本語をすらすら言えるのかどうかもわからなかった。が、「人参買うの?」と八百屋のおばさんが察してくれたのは、まさに『はじめてのおつかい』のワンシーンのようだった。

「……ツケておいてください」

声を絞り出して言うと、おばさんは帳面を出してきて、鉛筆で何かを書き込んだ。

「あの、もう家に帰っていいですか?」

泥棒と間違われないよう、どのタイミングで店を出ればいいのかわからなかったから。

この体験は私の心に深く刻まれ、以来、頻繁にその八百屋さんに行っては、こっそり食べるためのチョコレートを買うことを覚えてしまった。

しばらくし、八百屋のおばさんが家に来た。心配して、お母さんに「XXXちゃんがツケでお菓子を買っていくんですけど」とチクったらしく、私はあとで怒られた。

私は怒られるべきだったのか? 反省すべきは母ではなかったのか? 

「ツケ買い」は古いけど、今の「クレジットカードで課金」に似てると思う。

今日もまた大昔を振り返ってしまった。