オークション

昔は埴輪グッズも集めてた(埴輪そのものじゃなくて)

インスタで、とあるカナダ人アーティストが、アメリカ西海岸の山火事の被害者支援目的で、作品をオークションすると告知していた。オークションサイトでやるのではなく、インスタのコメント欄に金額を書き込む形式でやると。不謹慎ではあるけど、私はそのブツ(ミニチュアの観葉植物)が喉から手が出るほど欲しく、大義のほうは実は二の次なんである。

オークションは4日間続くので、誰かが「あと4日もあるから、私はギリギリに金額書き込むわ!」とコメントしていた。私はほかのオークションサイトによく張り付いていたりするので、その気持ちはわからないでもないけど、そんなことみんなに聞こえるように発言すると、オークションが全然面白くない!! 野球で「一球目では盗塁しないからね! ルーイ、ルイルイ」と敵陣に向かって言っているようなものである。あーやだやだ、と思いつつ、BID。

既にBIDしてる人がいて、10分もしないうちに、その人が私の提示金額をかなり上回る額を書き込んできた。

インスタ上のことだし、出展物がミニチュアなので、「誰? よっぽどのミニチュアファン?」と気になり、彼女のアカウントを覗き見ると、相当な富裕層っぽい。「インスタ映え」も念頭に見たけど、これは単なる映えではない。決定打は、彼女の旦那さんが真っ赤なフェラーリ430に乗っている写真だった。思わず、フェラーリ430の価格をググった(敵の懐具合を調べるため)。

仮に、今回のオークションで彼女と2対決になったとして、私にどれくらいの勝算があるのだろう? 私は生まれて初めて、オークションはやっぱりサイレントに限る、と思った。少なくとも賭けてる最中は公平かつスリルな気分が味わえて楽しいから。

ちなみに、私はアメリカのトヨタのディーラーで「赤が好きなの? このプリウスの赤はフェラーリレッドっぽいよ!」と勧められて即買いしたプリウスを13年間乗り続けている(カナダへの引越しのときも持ってきた)。このプリウスを買った日の夜、アイスホッケーの試合を見に行くことになっていた。契約書などにサインしているうちに、試合開始時間が迫り、思わずディーラーをせかす…… 真っ赤なプリウスに乗って走り去る私に、「新車だから飛ばしちゃだめだよ~! エンジンがびっくりするからね! 試合楽しんできてね~!」と見送ってくれた営業マンが忘れられない。

It’s been dealt with

日本からアメリカに渡り、初めて仕事をしたとき、「あ、もうそれやりました」と言うのに「It’s done」といつも言っていました。でも、「あれはもう(私もしくは誰かが)着手してますよ(終わってはないけど)」と言いたいときに、何といえばいいのかな? と思っていたら、アメリカ人が「It’s been dealt with」と言っているのを耳に挟み、「これか!」と思いました。現在形過去完了と受動態のダブル技ですが。

今回のミニチュアのティーセットは、フランスのリモージュ焼のミニチュアです。ま、本物ではないと思いますが。アンティークのミニチュアのティーセットの裏側には、「made in Japan」とか「made in occupied Japan」と記されていることがよくあります。実に細かい花の絵などが手描きだったりして見とれてしまうのと同時に、戦後直後はこういうものを作っていたんだなぁ、としみじみ思ったりするわけです。

ちなみに私の祖父は戦後に起業しました。日本軍が使っていた土地を買って工場を作って、ある商売を始めました。化学の知識が相当必要そうな商売なのに祖父は元銀行員だったし、商学部出身だったので、誰かとタッグを組んだのでしょう。そういうたくましさは、私たち三姉妹にもちょっとだけ流れているから不思議です。

Treasure Chest

 ある日彼からメッセージが届いた。

「Z」

 たった一文字。だたそれだけだった。どういう意味だろう。「X」でもなければ「L」でもなくて「Z」…… すぐに返事をしてこじらせるよりは、彼が帰ってきたときに聞いたほうがいい。そう思って不安な気持ちを抑えた。
 長い間待って、やっと彼が帰宅した。彼はあのメッセージにはまったく触れずに自室に下がった。彼の部屋には大きなつづらのようなものがあり、鍵がかかっている。そのとき私は、暗い閃きを感じた。ひょっとしたら、あの中に何かヒントがあるかもしれない、と思った。今彼は自室で、ジャケットを脱ぎ、ネクタイを緩め、深い溜め息をつきながら、あのつづらを開けているに違いない。いや、もしかすると、毎晩私が寝たのを確認してから、そっと起き上がり、何か私には見せたくないものをそこにしまい込んでいるのかもしれない。暗がりの中で、月明かりだけを頼りに。
 あのつづらはいつからあの部屋にあるのだろう。気がついたときにはもう置いてあった。あれを開ける鍵はどこにあるのだろう。夕食を温め直す私の手に力が入った。

 翌朝、彼を仕事に送り出し、独りになった私は、鍵のありかを考えた。常識が「開けてはいけないよ」と囁いている。でもこれくらいのルールは破ってもいいような気がしてならない。すると常識は、「知ってしまった秘密を、知らなかったことにはできませんよ」と、畳み掛けるように、語気を強めてきた。でも、鍵を探すぐらいはいいじゃないか。見つからないかもしれないし、見つけたところで、思いとどまって、実際にはあのつづらを開けないかもしれない。それに…… あの中には、私にとって大切なものは入っていない可能性もある。なーんだ、こんなものを大事にしまってたのか、と結果的に笑って終わる可能性もある。常識は、もはやこれ以上何も言うことはないと、腕組みをしているだけだ。
 鍵を隠すとしたら、どの辺に隠すだろう。ひょっとしたら彼は持ち歩いているのかもしれない。なぜわざわざ持ち歩くのだろう。きっと私に探し当てられては困るからに違いない。とすると、あの中に入っているものは、やはり…… まさか……?
 そっと彼の部屋に忍び込んだ。常識は「知ってしまった秘密を知らなかったことにはできないんですよ!」と、最後に叫びに近い声を上げた。そんなことを言われても、私には「知らなかったことにできない状態」を想像できない。知らなかったことにできない状態…… 知らなかったことにできない状態……

 そうだ、やっぱり彼に聞いてみよう。あの「Z」にはどんな意味が込められているのかを。携帯電話を取り出し、おそるおそる文字を入力した。

「昨日のあのメッセージ、あれは何だったの?」

 携帯の画面は怖いくらいに静かだった。
 しばらくすると、返事が来た。

「ああ、あれのことかな? 別の人にメッセージを送ろうとしたら、間違えて君に送っちゃったんだよ」

 別の人?…… それはやっぱりあのつづらの中にあるものと関係しているのではないだろうか。頭の中でありとあらゆる警告アラートが鳴りだした。常識が何かを叫んでいるけれど、その声はかき消されて聞こえない。私は指で額の脂汗を拭った。