2年前、イラストレーターの友人とコラボして、『赤毛のアン』でおなじみのモンゴメリの古い短編『A Christmas Mistake』を『クリスマスの伝言』と訳して、ミニ冊子を作った。去年はそれを電子書籍化して、Kindle Unlimited でも読めるようにし、英語版も作ってグリーティングカードにも使えるように体裁を整えた。どれもこれも、かかったコストは回収していないけど、学びは多かった。
ボケキャラの導入
ところで、この『クリスマスの伝言』、単なる心温まるお話という以外に、モンゴメリの力量を感じる部分がいくつかある。まずは、登場人物の多さ。英語で2900文字にも満たない短い作品なのに、8人も登場人物がいて、主人公の女性2人はもちろん、他の6人も性格や物語の位置づけがぱっとわかるように書いてある。そして、この女性2人を一気に近づけるため、「ボケキャラ男子」を投入している。このボケキャラが伝言ゲームで失敗を犯すのが、この話のミソなのだ。
キリスト教的な互助精神を描いているのに、「男にボケさせる」という仕掛けを思いついたモンゴメリを私は尊敬した。それだけではない。モンゴメリは主人公の女性2人に、ボケ男について手厳しいことを言わせ、「庇護を受けるのは女性」という社会通念をひっくり返している。主人公の1人の女性は、子だくさんで男の子も何人かいるが、みな幼いため、「どいつもこいつも」な少年で、まだ母親の世話になっているところが見逃せない。
19世紀終わりから20世紀初めのお菓子
『クリスマスの伝言』には、19世紀から20世紀に入る頃のお菓子がたくさん登場する。だから、イラストの作り甲斐があった。なんたってまだ電気の冷蔵庫がない時代。ゼラチンを使ったお菓子は高級とみなされていたようで、それをケーキ台の上にのせて出したりする。『クリスマスの伝言』にもクランベリーゼリーを外で冷やし固めて作る場面が出てくる。北米でよく見かける「Jell-O」が売れ始めたのは、ちょうど、モンゴメリが『赤毛のアン』を発表する頃だった。
私たちはここから、19世紀のクックブックに目覚め、これで次の冊子を作るべく、時間があるときに調べている。イラストレーターの友達は料理好きなので、当時のレシピどおりにお菓子を再現してくれる。でも、全然おいしくないらしい。
