読書会9 – 歩道橋の魔術師

今月は呉明益の『歩道橋の魔術師』。この本がお題に選ばれたのは、明治書院の高校生用の国語の教科書に、この小説が収録されたという話をメンバーさんが教えてくれたから。掲載されるのは表題作だけらしいですが。

この読書会で呉明益作品を読むのは今回で2冊目。1冊目の『雨の島』と同じように、短編がいくつも収録されていて、本全体を貫く要素がある。たとえば、どれも昔台北にあった中華商場が舞台になっていて、そこで育った子どもたちの視点、その子どもたちが大人になってからの視点で語られている。狭い空間しか知らない子どもの世界の端っこには魔術師がいて、子どもたちの人生の転機にマジックを使い、その世界に穴を開ける。そして、どの短編も暗く、大人に成長した子どもたちは幸せそうではない。全体にたなびくような不幸感が、エドワード・ヤンの映画みたいだと思った。

電子版の『歩道橋の魔術師』には、天野健太郎訳に、及川茜訳の短編が一つ追加されていて、1冊で二人の訳者の訳を読めるのもうれしかった。特に、いちばん最後に収録されている、及川さんが訳された双子の話が、「二つの中国」に二枚舌を使う「外国」、あるいは、「中国が二つある状態」に対する決断を保留し続ける「台湾」の話のように読めて興味深かった。

天野健太郎の訳者あとがきに加え、東山彰良の解説もあって、こちらも読みごたえがある。私が『歩道橋の魔術師』に出てくる中華商場の存在を初めて知ったのは、東山彰良の『流』を読んだときだった。

読書会5 – 雨の島

今回はYAを離れ、大人の小説。台湾の有名な作家、呉明益の『雨の島』を読んだ。

台湾は何回か行ったことがあるぞ! と本を開いてみると、私は台湾のことなんて、これっぽっちも知らないことに気づかされた。私は「台湾=台北」のイメージしか持っていなかった。登場人物も台湾の原住民族。そういえば、昔台湾で仕事をしていた妹が、「台南のほうは全然ちがうよ」と言っていた、と今頃思い出した。

『雨の島』は近未来の話なのに、どこか懐かしい気持ちになる。思わずエドワード・ヤンの映画が目に浮かぶ。わかりますかね、このたとえ……

台湾に生えている植物や鳥の名前など、知らない固有名詞が次々と出てくる、細かい自然描写。そして、その自然がSFとうまくマッチしている不思議さ。現実と幻想の世界を行ったり来たりしても違和感を感じない。それに、登場人物には外国とのつながりがあることが多く、小さな島国の話なのに、空間が広がってるみたいにも感じる。

6つ収録されている短編のなかでは、2番目の短編がいちばん好きだった。読書会のみんなも、これが好きだと言っていた。いちばんわかりやすい、ってのもある。

気になったのは、アンドロイドクロマグロ。これについては、いろいろと話すことが多く、環境問題、AIの将来へと話は広がり、呉明益のわなに完全にはまっている気がした。アンドロイドクロマグロの短編は、ちょっと『白鯨』っぽい雰囲気もあって、こちらも好きだな。

呉明益の作品は、いっぱい積読しているから、この夏にいろいろと読もう!