エズラ・ヴォーゲルの日中関係史

下訳を担当したので、紹介したいと思います。「東アジアの今を理解するために、その1500年の歴史を振り返りたかった」というエズラ・ヴォーゲル氏が書き上げたのがこの1冊です。では、東アジアで生まれ代々暮らしている私たちは、そこに住んでいるだけで東アジアのことを理解できているのでしょうか。そこはやはり勉強が必要で、それがこの本の「売り」なのだと思います。しかし、なんといっても1500年に亘る長い日中関係史、まずは興味をそそる時代のページを開いて読むのがいいと思います。

私は門外漢なので、ここからは翻訳こぼれ話でお茶を濁すことにします。

私が担当したのは近代の部分。翻訳作業中はイタコ状態になるほど、翻訳している本の内容のことばかり考え、脳内が完全に日中モードになりました。

鄧小平の前後の中国の指導者たちのことをネットで検索していたら、いつのまにか山崎豊子の『大地の子』にたどり着いていました。仕事が終わると、夜な夜な、あのドラマを見たり、原作を読んだりしていたのです。

当時は世界最先端の鉄鋼技術を誇っていた日本、重工業で巻き返しをはかりたい中国、そんな時代に自分も生きているような気がしてきました。そして「翻訳」という仕事柄、気がつけば、2つの国の間に立つ『大地の子』の主人公の陸一心(上川隆也)に心の底から共感し、彼が日本語と中国語の堪能さのせいで味わう苦しみや達成感に、「わかる!!」と涙を流していたのです。

日本と中国、この2つの大きな円のどこかに自分がいる…… そう考えてみてください。あなたは円のど真ん中にいるでしょうか。それとも端のほうでしょうか。端のほうでも2つの円が重なっているところでしょうか。

そして、時間軸でも考えてみましょう。自分、自分の先祖、親の世代、子どもの世代…… 私たちの人生は、寿命が長くなってきたとはいえ、所詮90年ぐらい。でも、私たちは先代が築いた時代を引き継いで、先代の功績も負の遺産も背負って生きています。そして、私たちもまた同じように次世代にバトンタッチしていきます。

長い長い日中の歴史研究に人生を捧げてきた学者が、その綺羅星のような人脈を生かして研究した成果を是非一度読んでみてください。