先週の炎上についてつらつら

翻訳業界では、最近とても活発に報酬について意見交換が行われていたところ、ジェンダー問題に進展しました。当事者たちはもちろんのこと、直接的に、あるいは間接的に、多くの人が意見を投稿する事態になりました。

読んでいるとつらくなるような発言もあって、悶々として、何か自分も言いたい、でもどうそれをうまく表現する? と思考が堂々巡りになり、投稿を書いては消し、書いては消し、で、「おめぇは何をいいたいんだ?」みたいな投稿をするという作業を繰り返しました。あとで親しい人たちに聞いたら、みんな同じことをしていたそうです。つまり、ツイッターで飛び交った言葉は今回のほんの一部でしかない。みんな本音は別の、見えないところで交換されていたんでしょうね。

個人的に、私が人生の今ここに辿り着くまでのいちばんの障壁といえば、まぎれもなく断トツでジェンダーです。それも家族間の。だからこう、反射的に女性援護に気持ちが向いてしまうんです。ですが、同じジェンダーに属しているからといって、みなが同じ意見を持っているわけではないですし、立場上、特にツイッター上では沈黙を保たなければならない人も多いでしょう。今回は、ジェンダー以前の問題や発言の主旨以外の部分を問題視している人も多くて、それはそれで、私にも意見があります。おそらく、みんなそうですよね。でも、少し時間も経って、頭もそこそこ冷やしてから、自分にできることをやっていきたいと思います。

そういう意味では、様々なジェンダーについて考えさせてくれる情報や本、ひとことをシェアしてくれた人たちがありがたかったです。あと、私は思考の沼にはまったので、押野素子さんのアフロフューチャリズムの講演を聞きました。どうしても、嫌な言葉遣いや論理の飛躍を見てしまうと、「あーやだやだ」で終わってしまうので、何か新しいことに触れたいと思ったからです。あまりよく知らない分野だったので、耳にしたことがすべて新鮮に聞こえ、自分の知らない世界がたくさんあることを再認識しました。経験値だけで不用意な発言をしたり、頼まれてもいないのにえらそうに助言したりするのは(しないですが)だめだなと心の底から思いました。

あとですね、実は、報酬の意見交換の段階から気になっていることがありました。本のフェアトレードの裏にいるのは若い翻訳者さんです。でも、本のフェアトレードからすごく著名な翻訳者さんのインタビュー記事が出ると、みんなわーっと一斉にシェアします。もちろん、私もシェアした。でも普段はツイッター上の反応は冷ややかに見える。ところが今回のジェンダーの一件で、報酬の件に関しても、私と同じように「あること」を思っている、だけど、そのことを表立っては言いにくいと感じている、という人が結構いることに気づきました。

話は少々ずれるのですが、パートナー(大学教授)にこの件を話すと、「大学も一緒!!」と身を乗り出してきました。かつて、まだフェイスブックもグーグルも小さかったとき、学生の就職先にそういうところを勧める人はすごく少なかったどころか、将来が不安だからやめときなさい、という人が教授にも親にも多かったのだそうで。しかも、ある世代の教授は「大学に残って(教授の下で)研究することがいちばん」と思っている人もいて、むしろそっちのほうが生活が不安定になりがちで無責任ではないかと、パートナーは思っている。だから「何か新しいことをするときは、年寄りの話ばかり聞いていてはだめだ」と言っていました。……と言っているわれらが年寄りなんですが。それはさておき。

私はトロントに住んでいるのですが、トロントの本屋さんをめぐると、大型チェーンの書店とインディ書店では置いてある本が全然違います。棚の作り方が全然違うと言ったほうがいいのかな。大型書店は、「世間ですっかり認められている著者」の本や、有名な賞を受賞した本、テレビで著名人が紹介した本、SNSでバズった本、著名人のブッククラブの本が並んでいます。インディ書店は「テーマ別」。しかも主流のメディアでは取り上げなさそうな「小さな声」の本。マイノリティ、移民、ブラック、フェミニズム、資本主義(の限界)、気候問題、動植物(人間以外の生物)、菜食主義などの本がずらーっと並んでいます。先日講義を聞いたアフロフューチャリズムの本もありました!

こういうインディ書店に人がたくさん立ち寄り、本を眺め、買っている。なんなんだ、これは!すばらしい。主流の本しか売らないところもあれば、主流でない本ばかりを積極的に並べて売る本屋があって、住み分けができていて、私たちには選べる贅沢がある!

ぜんぜん、まとまりのないことを書きましたが、先週の炎上は当事者の方々にはつらかっただろうけど、私にはいろいろ考えるきっかけになり、そのときに考えたことをまとめておこうと思いました。まあ、これ以外にもいろいろあるけど、書ききれないし、現在進行形の考えでもあるから、今回はこの辺で! 

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