ウソ日記7

山形でトミヤマユキコさんの講座がある。7日間ウソ日記を書くという課題らしい。本当は受講したかったけど、できないから、代わりにここに7日間ウソ日記を書く。全部がうそっぱちとは限らない。

間は空いたけど、無事7日目にたどり着いた。ウソ日記はなかなか面白かった。嘘のつき方がうまいと、読者が増えることもわかった。書くのも楽しかったし、続けてみようかな。

6月3日土曜日

私はその日、鉄道警察のパトカーに乗って登校した。そんなチャンスに恵まれることは、人生長いとはいえ、あまりないから書き残しておく。

私は朝が苦手だ。いや、そうでもない。夜通しずっと起きて朝になるときの朝は好きだ。だから早起きの人の気持ちがよくわかる。その日は朝早起きして学校に行くという最悪のパターンで始まる日だったから、通学の電車に乗ってもまだ半分眠っているような状態だった。

電車のガタンゴトン、プシューの繰り返し音を聞きながら、私はまた夢の世界に戻っていった。テストがあったのに時間を間違えて受けられなかった夢、卒業間近になって単位が足りないことが発覚した夢…… それらの夢が遠のいていくと、駅名のアナウンスが遠くから聞こえてきた。「ああ、聞き覚えがある駅名だ……」

気が付けば、乗り越していた。でも、いつもやるようなヘマだから慌てない。どうせ行くのは学校だ、急ぐこともない。ぼんやり窓の景色をながめつつ、次の駅で降りて折り返そうとのんびり構えていたら、景色が違う。どうやら車庫入りをするらしい。

遅刻はしょっちゅうするし、忘れ物は多いしでいいことなしの私だけど、このときはすばやかった。スタっと席から立ち上がると、運転席めがけて走った。何両も連結してるから運転席は遠い。やっとの思いでたどり着き、運転室のガラスを「トントン」ではなく、「ガンガン、ガンガン」と二度叩いた。

振り向いた黒人の運転手の表情には一瞬恐怖が走ったようだけど、いかにも学生の私を見て、事情を察知したのだろう。呆れ顔になったかと思うと、心底「めんどくせぇ」という表情に変わった。「折り損ねたんですぅ~」と英語で言ってみたが、こういうとき口をとがらかすのは、ぶりっ子すれば助けてもらえるという刷り込みか。

「I have one stranded passanger onboard.」と運転手は鉄道警察に電話した。

やがて私は運転手と2人で車庫入りした。車庫デカい!暗い!怖い!鉄のにおいがする! プラットフォームのないところで電車から降りるのはキツイ! その場で、私の身柄は鉄道警察に引き渡された。

「どこに行こうとしてたんだ?」

「XXX学校です。駅からのシャトルバスもこの時間だともうないかも」と一応言ってみた。

「じゃあ、学校まで送ってやる」

私ははしゃいだ。ダッシュボードがどうなってるのか後部座席からガン見して、警察に話しかけた。こうして私は鉄道警察のパトカーに乗って学校へ行ったというわけ。

電車の車庫もパトカーもお初という、盛りだくさんな一日だったYO。

ウソ日記6

山形でトミヤマユキコさんの講座がある。7日間ウソ日記を書くという課題らしい。本当は受講したかったけど、できないから、代わりにここに7日間ウソ日記を書く。全部がうそっぱちとは限らない。

5月30日月曜日

カスタマーサービスに連絡しても、相手がAIなのか人間なのかがわからないことが多くなって久しい。AIであっても、「Jenny」とか「鈴木」とか名前をあてがわれているせいもあるけど、あっちが学習してるのと同じで、こっちも経験値が上がってきて、「これは人間だ!」とは尚早に判断しない。今の時代、とりあえず相手は「AI」だろうと思って、「どっちかわからない」ということを肝に銘じて、カスタマーサービスと話したほうがよさそうではある。

最近、電子書籍のデータを取り込んで要約してくれるアプリを見つけたので、早速試そうとしたら、電子書籍最大手のアカウントとしかつなげられない。あの会社に独り勝ちさせるのは嫌だ! そこで普段使っている電子書籍の会社に連絡することにした。

「あのぅ、XXXというアプリを使いたいんですが、例の最大手のアカウントしか接続できないって言われたんです。将来的に御社もこのアプリと契約を結ぶ予定はありますか?」

とメッセージを送ると同時に、アプリのウェブサイトのリンクも送ってみた。「もうすぐ接続できるようになりますよ」と言われれば、待つつもりだった。ところがだ……

「お問い合わせありがとうございます。ところで、送っていただいたリンクを開くことができませんでしたので、スクショを送ってもらえますか?」

この返答を読み、私はいくつかの可能性を考えた。

1)リンクが本当に壊れている(人間 or AI?=わからない)

2)リンクをクリックする気がない(人間 or AI?=人間?)

3)真剣に対応しようとしているが、客に負荷をかけている(人間 or AI?=わからない)

使えていないアプリのスクショを撮って送るのは、なんか馬鹿げている。このような場合、相手が人間なら「すみませんけど、アプリ名も伝えてあることですし、そっちで検索してもらえませんかね」と言える。この時点では「人間 or AI?=わからない」なので、何とも言えない。ま、いいや。きっと、このアプリと連動させることはできないんだよね、と先回りした。

仕方がないが、例の最大手との組み合わせで使うしかない。こういうAI系アプリがどんどん出てきて、いずれはこの某社は消えていくのかもしれない。そもそもこのAI系アプリを見つけなければ、さよならしなくて済んだんじゃないか!? ちょっと寂しくなった……

「あ、じゃあ結構です」

「ご連絡いただき誠にありがとうございます。他に何か御用はありますか?」

いや、ないですよ……

まるで心がすれ違うようになった恋人が一方的に別れを告げるときみたい。「引越することにしたんだ。だから君とはもう付き合えない」。

「そうなんだ、今まで本当にありがとう。他に何か私に言いたいことはある?」

そんな恋人いるわけねぇ!! でもAI恋人なら言うかもね。お別れしたあとに、アンケートを送ってくるかもね。「いかがでしたか? もっとあなたに合った、ステキな恋人になって戻ってきたいので、アンケートに答えてね。所要時間は3分」

あなた色に完全に染まるステキな恋人…… 要らないです。だって、友だち同士のおしゃべりがつまんなくなるもの。

今日もまたAI(かもしれない)に無駄に時間を使ったナ。

ウソ日記5

山形でトミヤマユキコさんの講座がある。7日間ウソ日記を書くという課題らしい。本当は受講したかったけど、できないから、代わりにここに7日間ウソ日記を書く。全部がうそっぱちとは限らない。

5月26日金曜日

『フェリスはある朝突然に』に出ていたアラン・ラック。彼が映画の中では高校生役だったにもかかわらず、当時28歳だったという事実を知り、軽いめまいを覚えた。あの映画は大好きな映画の中の1つで、キャメロン(アラン・ラック)が父親の真っ赤なフェラーリを破壊するシーンは私の心に永遠に刷り込まれているから、あのときの彼が28歳だったのは衝撃でしかない。要は、アラン・ラックは超童顔だったのだ。

私も童顔。中学生の頃は小学生に間違われ、大学生になっても高校生以下で通用し、「いい女」とか「セクシーな女」という時期がすっぽりと抜け、気が付けば、外見の衰えと中身が致した中年になり、小学生以来、人生二度目の「実年齢と見かけが一致した」時期を今迎えている。なんだろう、この感じ。古代ローマ時代の人間がルネッサンス時代に現れたみたいな……?

「いい女」「セクシーな女性」という時期があった中年女性を見ていると、特にハリウッドの女優の中に「いつまで20代後半をやっとるんや!」と言いたくなる人はいる。最近はそういうのから「降りる」宣言をする女優さんも多いけど、自分の外見を「20代後半」に氷結させることに、もしかして重大な意味があるのだろうか。

年齢を問わない集まりがあり、お隣に座っていた女性が最近誕生日を迎えたとのことで、「へえ、おいくつになられたんですか?」と失礼ながら訊いたら、「100才です」って。さすがに「うぁ!童顔ですね」とは言えない。その場に参加していることがすごい。その方は、我々がスマホを充電したまま家に忘れたときと同じ悔やみ方で、「補聴器充電してたのに、家に置いてきた!」とおっしゃった。

100才の人に直に会うことはそうそうない。めったにないチャンスだからいろいろ聞いてみたい。ほら、50代のおばさんは、「40代より50代のほうが自由でいいよ~」ってよく言うじゃないですか。だから、満を持して聞いてみた。

「100年の人生でどのあたりが最高だったと感じてますか?」

「すべてですよ」

そうかぁ、そういう境地になれるのかぁ。ひれ伏したい気持ちになった。

今日はいつもと違う、いい日だったヨ。

ウソ日記4

山形でトミヤマユキコさんの講座がある。7日間ウソ日記を書くという課題らしい。本当は受講したかったけど、できないから、代わりにここに7日間ウソ日記を書く。全部がうそっぱちとは限らない。

5月25日木曜日

散歩の途中、大型犬に出会った。妙に男らしくがに股で歩き、後ろ脚の間に男の勲章である「玉」をぶら下げていた。

「いやいや、だまされんぞ」

と私は思った。ワンコの去勢が当たり前になり、「玉」を失ったオスワンコを気の毒に思った飼い主たちが、「Nu Ball」なるものをくっつけてやり、ワンコの男らしさを取り戻してやっている、という記事を昔読んだことがあるからだ。最近は動物であっても「オス」であり続けることは難しいらしい。

しかし、その大型犬はクンクンクンクンと芝生の匂いを嗅ぎまわり、追い越す私のこともクンクンクンクンとチェックし、野性味たっぷりの犬だったので、あれは自前の玉だな、と考えを改めた。

私はかつて「Nu Bra」を持っていた。別に豊胸に憧れていたわけではないが、サマードレスなどを着るときに「Nu Bra」で盛っておかないと、胸の部分がスカスカになるのだ。ある日、私はNu Braを付け、胸の谷間をくっきり出したサマードレスで女友達と食事に出かけた。「おお、やるね~」「だろ~?!」とささやかな自慢をして食事をした。

帰りはバス。バス停にバスが来てるから、みんなで走った。私は断トツ足が速かった。

「ちょっとちょっと~!!」と背後から友人が叫ぶので、振り返ると、いつの間にかNu Braが落ちていた。走って汗をかいたから、粘着力が弱まったのだろうか。

道に落ちているNu Braは無残だった、いや、異様だった。道に落ちていてもプリプリしていた。拾い上げて、さっと胸に張り付け直した。女でいることにも一種のややこしさはある。オスワンコと同じで。

今日も一日、風がさわやかだったゼ。

ウソ日記3

山形でトミヤマユキコさんの講座がある。7日間ウソ日記を書くという課題らしい。本当は受講したかったけど、できないから、代わりにここに7日間ウソ日記を書く。全部がうそっぱちとは限らない。

5月24日水曜日

この頃、若者は「大人になるための」旅に出ないらしい。昔のアメリカ青春映画の定番といえば、思春期のややこしい事情を振り切るために、アメリカ大陸を中古車に乗って横断するパターンが多かった気がする。そういえば、今の映画は「どこですか~、その国は!?」とファンタジーの世界に行ってしまうことが多い気がする。唯一、どこかへ旅に出るという成長物語のテッパンを守っているのは、『はじめてのおつかい』くらいじゃないか。

私の「はじめてのおつかい」はハードルが高かった。近所の八百屋に何かを買いに行かされたのだが、財布を渡されず、「ツケておいてください」と言え、と言われたからだ。

「それってどういう意味?」と訊いたが、「とにかく、そう言えばわかる」の一点張りで、手ぶらで家を追い出された。

買わなければならない人参はすぐに見つけたものの、「ツケておいてください」の一言ですむのかどうか、その日はじめて聞いた日本語をすらすら言えるのかどうかもわからなかった。が、「人参買うの?」と八百屋のおばさんが察してくれたのは、まさに『はじめてのおつかい』のワンシーンのようだった。

「……ツケておいてください」

声を絞り出して言うと、おばさんは帳面を出してきて、鉛筆で何かを書き込んだ。

「あの、もう家に帰っていいですか?」

泥棒と間違われないよう、どのタイミングで店を出ればいいのかわからなかったから。

この体験は私の心に深く刻まれ、以来、頻繁にその八百屋さんに行っては、こっそり食べるためのチョコレートを買うことを覚えてしまった。

しばらくし、八百屋のおばさんが家に来た。心配して、お母さんに「XXXちゃんがツケでお菓子を買っていくんですけど」とチクったらしく、私はあとで怒られた。

私は怒られるべきだったのか? 反省すべきは母ではなかったのか? 

「ツケ買い」は古いけど、今の「クレジットカードで課金」に似てると思う。

今日もまた大昔を振り返ってしまった。