Y日記31

最近、私の訳本が刊行されましたが、一般流通はしていないみたい。リアリズムの国際政治学者ジョン・ミアシャイマーの本で、邦訳は『リベラリズムという妄想』です。前半が政治哲学、後半が今の国際政治についてだから教科書っぽくはあるけど、政治哲学に馴染みがない人は後半を読んでから、前半に戻るという読み方をすれば、わかりやすいかな。

タイトルは私がつけたわけじゃない。邦題からは内容を想像しにくいけれど、一極集中の世界で超強大なリベラル国が「リベラル・ヘゲモニー」という世界覇権を目論んでも、他国のナショナリズムの抵抗に遭って失敗します、という大筋です(アメリカがそうであるように)。どうしても、「共和党支持か/民主党支持か」や「保守か/進歩か」の対立軸で考えてしまいがちではありますが、そうではなく、もっと俯瞰して、冷戦以降のアメリカの政権を振り返って分析しています。たぶん、『リベラリズムという妄想』というタイトルが付いたのは、反リベラルのほうが食いつきやすい内容なのと、ジョン・グレイの『グローバリズムという妄想』の二番煎じっぽい邦題により、あれを読んだ人はこれも読んでね、と誘導しやすいからかもしれないです。

今後の世界の勢力均衡はどうなるのだろう、各地の戦争はどうなっていくのだろうと思っている人は読んでみてください。といっても、この本、どこで買えるんだろう? 今のところ、Amazonでも売っていなかった。いつかメルカリに放出されるかも。

実は、この本、向こうから私のところへ転がり込んできました。私が引き受けたのは、次のような理由があったからです。

2年以上前、ロシアがウクライナに侵攻したとき、カナダやアメリカの大手メディアでは、当然ながら、西側の見解だけが報道されていました。私が住んでいるカナダはNATO加盟国だし、ウクライナ系移民もロシア系移民も多く抱えて抗議デモも盛んだったし、NHLのオベチキンなどは堂々とロシアを擁護して話題になった時期もありました。何より、カナダは早々に大勢のウクライナ人の受け入れを決めていました。

私は、「どうなるんだろう?」と不安を感じているうちに、戦地から遠く離れている私たちはプロパガンダ戦争に巻き込まれている気もしてきて、大手メディアよりもポッドキャストを聴くようになりました。政治ポッドキャストの世界では、ミアシャイマーの名前をよく耳にし、実際に出演もしていました。ざっくり要約すると、「何十年と続いてきたNATOの東方拡大が引き金になってロシアは軍事行動に出たのだから、西側に責任がある」とミアシャイマーは言いつづけていました。

そもそも私は、ブッシュ息子が「イラクは大量破壊兵器を隠し持っている」と主張して、イラク戦争やアフガニスタン戦争を始めた頃にアメリカに住んでいたこともあって、「民主主義を広めるために他国に侵略するアメリカ」に心底驚き、そのあとに続いたムスリム叩きに辟易していました。だから、ミアシャイマーの言っていることに共感を覚えたのです。

そんなわけで、私は「やるやる〜!」と引き受けました。家人に「ミアシャイマーの本を訳すことになったよ」と伝えたら、「ノー・ファッキング・ウェイ!」と喜んでくれたので、二人で乾杯しました。

余談ですが、大学時代の友人で政治学者になった人がいたので、その人に献本することにしました。でも、所属大学名しか知らなかったから、所属と住所を突き止めて送りました。ちゃんと届いたかな?


最近、姉御が見ろ!と言ってきたマーサ・スチュワートのドキュメンタリー映画『Martha』と、イギリスのストーカードラマ『Baby Reindeer』を見ました。『Baby Reindeer』は、単なるストーカーの話かと思ったら、全然違った。『Martha』はマーサ・スチュワートが出所したときに来ていたポンチョと、そのあとに続いた「ポンチョブーム」もちゃんと描かれていて、「私もあのポンチョ作ったな〜」と懐かしく感じたのがよかったです。当時から、マーサが男だったら、そもそも実刑判決を受けることなどなかったと言われていましたよね。

どっちもおすすめ。

あとは、アーサー王について勉強しようと思って、『First Knight』も見ました。ショーン・コネリーがアーサー王で、リチャード・ギアがランスロット。う〜ん…… 面白くはなかった。1995年の映画だからかな、それとも、リチャード・ギアがあんまり好きじゃないからかな。

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