Y日記42

4月2日、トランプ政権が相互関税の導入を発表したので、カナダでも大騒ぎ(カナダは追加関税の対象からはずれていたので、やや拍子抜け)。その後に株市場暴落が’続く。ニュースを見ると世界は大騒ぎなのだけど、わたしはピックルボールの仲間と平和にチャットで大喜利的な冗談を言い合っていた。私以外は日本語を解さないので、大喜利ではないが、「Pickleball」を下ネタっぽくネーミングするというおふざけをしていた。こういうとき、私は語学力を発揮して人を笑わせることができる。

前日にはピックルボールのプライベートレッスンをとった。オンタリオ州で$200ドルのばらまきがあったので、それを使ったった。インストラクターは韓国系カナダ人。互いに平たい顔の民族なのは安心感を呼ぶ。サクッとした性格で教えるのも上手だった。オンタリオ州、もっと現金をばら撒いてくれ〜。

ある人とおしゃべりもしていたら、生まれてすぐに養子としてカナダに来たのだけれど、もうすぐはじめて韓国へ行くと言う。生みの親の情報は一切知らされていない。でも誕生の地へ赴くだけでもビッグイベント。「おめでとう」と声をかけた。過去に養子問題専門のセラピーをしばらく受けていた経験があるからなのか、こういう「引き寄せ」がたまにある。私は「夫婦二人の生活をまず楽しんで、あとは養子をもらえばいいじゃない?」的な軽々しい言葉を耳にすると心がざわつく。考えてみてもほしい、あの制度が大人視点で作られていることを。まあ、わたしもかつては深く考えていなかったのだが、軽々しく考えるのとは次元が違う。

だから私は孤児や、「お前は小さいときにお母さんに見捨てられたんだよ」と言われ続けて育った人が主人公の小説に引き込まれる。だから持ち込みたいタイトルがある…… となぜかここで仕事につなげてしまうのはフリーランスの習性。

最近、韓国映画『タクシー運転手』を見た。1980年の光州事件の映画だから、ふと思ったが、この韓国からカナダへ養子としてやってきた人は、その頃に生まれたのかも。この映画の英語のタイトルが「A Taxi Driver」で、アメリカ映画の「Taxi Driver」とタイトルが似てるからややこしい。「え?」と相手が勘違いしてそうだと、タクシーの運転手がソン・ガンホなのか、ロバート・デニーロなのかをはっきり言わねばならない。

他に最近見た映画は、『リアル・ペイン(A Real Pain)』、『The Wild Robot』、『自虐の詩』、『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』、それと『ナポレオン』。『リアル・ペイン』の邦題に「心の旅」と副題が付いてた。副題って解釈をある方向に引っ張るよね。そこは視聴者に100%委ねてほしいといつも思う。副題って付けてほしい人多いのかな。『ナポレオン』は軍服や貴族の衣装がやっぱりすごいね。特に軍服。ここんところ、ずっと歴史衣装のことばかり調べてるから。と、また仕事の話になってしまった。

Y日記41

1月末、日本一時帰国中に蛇窪神社でおみくじを引いたら、「思うようにならぬとて心をいためず、時節のいたるをまちてよし」と書いてあった。なんか、その言葉どおりのことが起きている。ありがとう、神様。

『セヴェランス』のシーズンフィナーレを見終わった。この話はどこへ向かうのだろう……と思っていたところへ、結局はそこか!! と思わなくもなく、「この野郎、マーク!」と画面に向かって毒づきそうになった。同時にディランの株が上がった。次のシーズンが楽しみではある。

『セヴェランス』が終わってしまってどうしたらいいんだ……とピックルボールの仲間に相談したところ、複数の人が『White Lotus』と口を揃えたので、この間ストリーミングのサブスクを整理したところだけども、CRAVEに加入することにした。こうして私のサブスク貧乏は続く。それどころか、Audibleのお試し期間をキャンセルし忘れたので、サブスク貧乏に拍車がかかっている。

『Conclave(教皇選挙)』をストリーミングで見た。ローレンスが中間管理職みたいにあちこちで板挟みになりつつ、粛々と裏情報を集める姿に共感。でも、一番面白かったのはベリーニ。いかにもアメリカ人という感じだったから。今の教皇も体調がすごく悪そうなんで、現実に教皇選挙が起きそう。

ピックルボールの仲間がデートアプリで知り合った人と数回デートしたものの、うまくいかなかったらしい。私はデートアプリにお世話になったことが一度もない、と話したら、「うらやましすぎる」と言われた。チャット→コーヒーデート→レストランデートと手順を踏んでいくあいだの浅い会話に飽き飽きしているらしい。まあ、相手にドキっとしなかったってことなんだろうけど。ピックルボールで誰かと知り合うのがいいような気がするけど、年寄り多めだし、どうなんだろうか。

自分の書いた書評をローカル情報誌に晒すことにした。書評を書かせてもらう場所もなく、書き方だけを学んでる自分に空しさを感じていたから、これでいい。書評講座のおかげだと思うんだけど、本の感想を聞かせてと頼まれることが増えてきて、それが仕事につながってる。なんだろ、すごい遠回りをしているうちに目的地に着いたかんじ??

無駄っぽいことをしてるほうが楽しくて、実はいいことにつながるって誰かが言ってた気がする。誰だろう?

Y日記40

先週、ピックルボール仲間と飲み歩いた。10人くらいで。そんな大人数だから、行けるところは限られてくるけど、スパゲッティを食べながらディスコというコンセプトの、オシャレ感ゼロの、だけど、仲間で騒ぐ気満々の人にはうってつけの店に行った。天井に、古めかしいかんじのディスコボールがきらきら光って、ピンクがかった照明で、全然気取らないかんじがよかった。そこから3軒はしごした。

帰りは同じ方向に行く男の子とライドシェアして、「あれがおれの住んでいるマンションだ。今から家の照明をチカチカさせるからな!」と言われ、スマホで遠隔操作する姿と遠くに見えるマンションを交互に見た。確かにおもしろい。「見えた!見えた!」と喜んでしまった。

たぶん、私の今の社会生活のほとんどを占めているのは、このピックルボール仲間と、書評講座の仲間といってもいい。で、あとは仕事ね。今週は、前々からの懸念事項が前進したようで、ややうれしい。本当はかなりうれしいのだけど、他人の不幸が土台にあるので、ガッツポーズは控えたい。

それと……

101歳のお友達が亡くなりました。お別れは近いと思っていたし、最後にお別れの挨拶にも行けたけど、さみしいです。同志社女子大学英文科がまだ専門学校と呼ばれていた時代の大先輩です。お父様が英文学者だったから、その時代の女性としては先進的な考えを持っていて、聡明で、おだやかで、おもしろく、いつも美しい言葉で話し文章をお書きになる人でした。誰かが「顔を合わせると嫌な気分になる人がいる」と相談すれば、「大丈夫。みんな結構先にお亡くなりになりますよ」的な、100歳超えならではのジョークを飛ばす人でした。

最後に病室を見舞ったときも、寝姿を見て「お別れが近い……」と思ったのですが、名前を呼ぶと、ぱちっと目を開き、「100歳超えると、まさかって思うようなところにガタがくるのよ」とおっしゃった。ベッドには、大好きな猫のぬいぐるみがいっぱいで、「私もできるだけふわふわで手触りのいい猫のぬいぐるみに囲まれて最後を迎えたい」と思ったものでした。そう、最後の最後まで、人生の先輩でいらっしゃったのでした。

船坂まりさんの書かれた戦争体験手記「清水さんをおもう」は、暮しの手帖『戦中・戦後の暮しの記録 君と、これから生まれてくる君へ』の中に入っています。本当は、「軍事郵便」という題を付けたのに、別の題に変えられてしまったと残念そうでした。

「しみじみと別れ行く日の豊菊かな」

まりさんの初恋の人、清水さんが、まりさんと京都でお別れしてのち戦地から送ってこられた句です。これが「軍事郵便」で送られてきたのです。

まりさんには私たちのポッドキャストにゲスト出演していただき、その人生をおうかがいし、3回に分けて配信しました。音質が悪いですが、よかったらどうぞ。

Y日記39

『セヴェランス』のシーズン1を見終わった(シーズン2も配信分は全部見た)。淡々と話が進んでいると思いきや、第7話で大きな動きがあった。そのあたりから、ピックルボール仲間の一人とピックルボールをしながら『セヴェランス』の話ばかりする『セヴェランス』信者になってしまった。

『セヴェランス』って、ちょっと、ビジネス系自己啓発書を読みすぎてどうにかなっちゃった人たちみたいにも見ることができるよね。ミルチックとか特に。私のいちばんお気に入りのキャラクターだけども。

かつてサラリーマン時代に、ビジネス系自己啓発書をたくさん読まされるポジションに就いていた。確かに、考え方の違う人たちと一緒に働くと面倒が起きるので、民主的に仕事を進めるのであれば、自己啓発書を通していろいろ知っておいたほうがいい。効率よくコミュニケーションをとるとか、無駄のない会議を進めるとか。が、それも束の間。「なんで自分という存在をこうも会社に寄せていかねばならないのだろう……」と疑問が湧いてくる。『セヴェランス』を見ていると、そういう昔のことをよく思い出す。

その会社にいたとき、副社長から一ついいことを教えてもらった。それは自分の「思い込み」に気づく方法だった。シリコンバレーの会社だったから、「社員が『今日は101が激混みだった』と言うとき、君は、その社員がどこに住んでいると思う?」と聞かれた。速攻で「サンフランシスコベイエリア」と答えたら、「そういうのを思い込みって言うんだよ」と教えてくれた。

今週は他に、私が卒業した大学グループが創立150周年とかで、思い出などを一筆書いてみませんか? とメールが来ていたので、書いてみた。別に誰にも頼まれていないけど。意外にも暗いエピソードになったので、それを人目にさらすかどうか悩んでいるところ。

今翻訳の真っ最中だけど、ちょっと面白い本を見つけた。種まきしよっと。

もっと次から次へと仕事が舞い込んできてくれてもいいのにな。ツイッターをめちゃくちゃにしたあいつに対抗する本を持ち込んだんだけど、あれが決まればいいのに!

Y日記38

エレベーターの扉が開くと、そこにチワワを抱いた小さなおばあさんがいた。153cmの私がびっくりして見下ろすくらいだから、背の高さは110cmくらいだろうか。なんだかぎこちない。何か話しかけないと……

「犬がぶるぶる震えてますね。寒いのかな?」

小さなおばあさんはどこかの外国から来た、英語が不得意な人だった。気まずい……。おそらく向こうも気まずい。私にも経験がある。かつて英語圏に引っ越してきたばかりの頃にスモールトークに返事できなくて、キョどってしまう時期をやり過ごしたことが。

私はチワワを指差し、自分を両腕で抱えて、ブルブルっと体を震わせてみた。

「イエス、イエス」

そこでエレベーターの扉がやっと開いてくれた。おばあさん、チワワ、サヨウナラ!!

それはさておき。

是枝版『阿修羅のごとく』を見終わった。独善のかたまり、次女まきこに始終いらいらさせられたが、彼女が正義を振り回すから、あのドラマは面白いのだ。私は三姉妹の真ん中なので、四姉妹とはあのように「下2と上2」に分かれるものなの?と気になった。『細雪』の四姉妹はどうだったっけ? 

そして、いつも思うのだけど、この間見終わった『パチンコ』といい、アジアの昔の女性は寄り集まって食事を作ることが多い。

今は『セヴェランス』を見てる。Apple TV+を無料購読中だしね。

ヴァージニア・ウルフの『フラッシュ 或る伝記』を読んだけど、読みたいと思った版じゃないのを読んでしまった。

アン・カーソンの『赤の自伝』をちびちびポート酒を舐めるように読んでる。もうすぐ終わり。

101歳のお友達のお見舞いに行った。「この年になると、とんでもないところにガタがくるのよ!」とベッドに横たわりながらお話になる姿に生命力の強さを感じた。

オンタリオ州からばらまかれた200ドルを全部ピックルボールに注ぎ込んだった。