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11月はコルソン・ホワイトヘッド著、谷崎由依訳の『地下鉄道』を読みました。
「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」のシーズン3と4は、この小説を下敷きにしてるんじゃないか?と思わずにはいられませんでした。あのドラマのシーズン1と2は、マーガレット・アットウッドの小説を原作にしていて、すばらしいのですが、シーズン3以降は「???」と感じた人が多いんです。
『地下鉄道』は、アメリカの黒人奴隷たちが人道的な「地下鉄道組織」を頼り、奴隷制のなかったカナダに逃亡するという史実に基づいて書かれているのですが、小説の中では本当に地下鉄が掘ってある設定になっていて、エンタメっぽくなっています。奴隷制廃止前の話なので、構造的に人間以下の存在にされてしまった人々への暴力が半端ない。ドラマ化されているのをアマプラで見ようとしましたが、あとでもっと気分のいいときに見ることにします。
さて、奴隷制のような構造的差別についてですけれども……
この小説でも浮き彫りになっていますが、差別は差別するほうに問題がある。なのに、被差別者や彼らに同情的な人々にばかり、多大な犠牲が出る。ただ、差別するほうも、差別されるほうも、一枚岩ではなく、そのあたりの複雑さが、本当にきちんと描かれている小説なので、アメリカでよく読まれたというのも納得です。
奴隷制が廃止されるまで、逃亡して見つかった奴隷も、奴隷である主人公コーラを救おうとした人々もバッサバッサと虫けらのように殺されていくのですが、彼らがなぜ殺されたのかがちゃんと書かれているので、大きな社会変化は、こうした人たちの犠牲の上に成り立っていることがわかるのが救いです。
このあたりが、ハンドメイズ・テイルのシーズン3以降にそっくりなんですが、あちらのほうは女性の解放に向かうのかと思いきや、よくわからない女同士の対決が延々と続き、あれれれれ〜と視聴者が関心を失う感じになっていると私は思います。
話を小説『地下鉄道』に戻しますが……
作中、自由を手にした黒人が自分の話し方を直そうとしたり、本が読めるように努力する場面が何度か出てきます。日本から離れて暮らす私も有色人種で、場合によっては、差別対象になるわけです。北米の場合だと、アジア人はある領域ではマジョリティになっているので、今は、「アジア人ばっかり」という言い方をされやすく、裏を返すと、白人が多数を占めていることが「正しい」とされているわけです。英語を話すときも、出身がばれるアクセントで話しているため、それも差別を受ける理由になるのですから、ラストの事件は他人事ではありませんでした。
何かとカナダはアメリカからの「逃げ場」になるのは、なぜなのでしょうね。トロントにこんな場所がかつてありました。地下鉄道組織に敬意を払って作られたレストランだったそうですが、今はもうないです。ですが、今のカナダには、LGBTQI+の人の亡命を助けている組織があり、それが「虹鉄道」と呼ばれています。


シーズン 3のエピソード4をお届け。今回もゲスト回です。お迎えしたのは、私の大学の大先輩、船坂まりさんです。まりさんは今年100歳を迎えられたので、「同志社女子専門学校」の昭和19年のご卒業です。
トロント同志社会の集まりで、隣同士になったことがきっかけでした。そのとき、まりさんはお誕生日を迎えられたばかりで、そのお年を知って驚いたのでした。もっとお若いと思ったんですよ!
そこから、いろいろとお話を伺ううちに、暮らしの手帖が出している『戦中・戦後の暮らしの記録』(暮らしの手帖の70周年記念出版)に、まりさんの手記が掲載されていると知り、読みました。普段のメールの文章も日本語が美しいのですが、それだけではありません。文才がおありなのです。
「私は京都出身だから、いわゆる「戦災」には遭わず、家を焼け出されたとか、そういう経験はしていないんです。そんな私が経験した戦争を書いてみようと思ったの」
と、まりさんはおっしゃいました。まりさんの手記は「清水さんを思う」という題で、初恋の人を戦争で失った話です。本当は「軍事郵便」という題で出されたそうですが、編集で変えられたことが「とても残念」とご本人がおっしゃっていたので、ここに本当の題をお知らしておきます。でも、私は編集者さんの付けた題もすごくいいと思います。なんか、わかるんですよね、どうして変えたかが。題のことはさておき、切なく、そして、当時の恋愛というものがよくわかる話です。ぜひ、『戦中・戦後の暮らしの記録』に載っている、まりさんの手記を皆さんに読んでいただきたいです。
次回か、その次の配信で、この手記についても伺っているので、楽しみにしていてください。
戦中に監視されていても、毅然としていたメアリー・デントン先生の話や、戦争中でも英文学が勉強できた話が出てきます。同志社女子に通ったことのある人なら、デントン先生の話を聞いた記憶があるかと思います。今出川キャンパスにデントン館という建物もあるのですが、どんなだっけ?と思い出せなかったので、リンクを貼っておきます。
https://www.dwc.doshisha.ac.jp/campusmap/imadegawa/index.php
私、実は大学時代が「暗黒時代」の一つだったので、あんまり記憶がありません。ですが、この大学を志望した理由ははっきり覚えていて、「赤い煉瓦で統一されてるキャンパスがかわいい!」でした。今写真を見ると、赤煉瓦にもいろんな色があって、そんなに統一されてるわけでもないですね。
アメリカにいたとき「建物が可愛いから学校を選んだ」と人に話したら、「僕も〜」と言ってくれたアメリカ人がいて、その人はペンシルバニア大学に行ったそうです。いるんですねぇ、どこの国にも!
Spotify だけでなく、アップルポッドキャスト、グーグルポッドキャスト、アマゾンミュージックでも聞けます。「きょうこりんと姉御」で検索してみてね。
9&10月を一緒にした読書会の課題書は、2冊。『ぼくが死んだ日』と『魔法にかけられたエラ』でした。どちらも三辺律子さんの訳で、三辺さんの訳書で一度読書会をしてみたいね、と意見がまとまったからでした。
『魔法にかけられたエラ』は、アン・ハサウェイ主役で映画化もされているので知っている人も多いかもしれません。主人公が想像上の国の言葉に長けている設定なので、これ翻訳にすごく工夫が必要だっただろうな!とみんなでしきりと感心してました。翻訳 in 翻訳ですよね!
英語の原作が出たのは1997年(?)なせいか、シンデレラの話がベースになっているからのか、結婚が「あがり」なので、今読むと、そこが気にはなりますが。とはいえ、エラにかけられた魔法は、彼女から自由意志をかなり奪い、それを取り戻す話なので、ガールズ・エンパワーメントな話です。
Netflix でやっている「Sex Education」の主人公級の女の子(メイヴのこと)が選ぶ人生はちょっと違う。2023年の女の子のエンパワーメントってこうなんだな、と。エンパワーメントって、個人の内なる力と、自分を認めてくれる外からの救いの手が同時に起きないと難しいですよね。「Sex Education」が秀逸なのは、本来「自分を認めてくれて、手を差し伸べてくれるはずの大人たち」がほぼ全滅してる点かなと私は思います。
と話がずれましたが、どこかで、若い読者はパステルカラーの表紙を好むと聞きました。『魔法にかけられたエラ』はまさにですね!
私の個人的な好みは、『ぼくが死んだ日』でした。普通、怪談といえば、キャンプファイヤーを囲んで、生きている子たちが怖い話をして盛り上がりますが、これは「死んでる子」たちが墓場で集まり、自分がどうして死んだのかを順番に話してます。最初、「あれ、そういう話なの?」と気づいてから、加速的に変な話が続くので、大人で怪奇小説好きな人は、「お!これはあの作品をなぞってる??」みたいな発見の楽しみのある本です。残念ながら、私にはそこまでの知識はなかったのですが、それでも楽しめましたよ!
19世紀に死んだ子や、わりと最近死んだ子もいて、「どの話が一番気に入った??」と盛り上がれる、読書会向きの作品でした。
表紙絵も、大好きなさかたきよこさん作です。もう何回も人にいいふらかしていますが、私はさかたきよこさんが絵付したライオンのこけし、「コケジジ」を持っています。すごく自慢!

シーズン 3のエピソード3をお届け。今回ももっちりんださんとお話しました! この回は、もっちさんの力作です!ご本人いわく、会心の出来だそうです。ぜひ聴いてください。
今回触れている映画やドラマ
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