読書会9 – 歩道橋の魔術師

今月は呉明益の『歩道橋の魔術師』。この本がお題に選ばれたのは、明治書院の高校生用の国語の教科書に、この小説が収録されたという話をメンバーさんが教えてくれたから。掲載されるのは表題作だけらしいですが。

この読書会で呉明益作品を読むのは今回で2冊目。1冊目の『雨の島』と同じように、短編がいくつも収録されていて、本全体を貫く要素がある。たとえば、どれも昔台北にあった中華商場が舞台になっていて、そこで育った子どもたちの視点、その子どもたちが大人になってからの視点で語られている。狭い空間しか知らない子どもの世界の端っこには魔術師がいて、子どもたちの人生の転機にマジックを使い、その世界に穴を開ける。そして、どの短編も暗く、大人に成長した子どもたちは幸せそうではない。全体にたなびくような不幸感が、エドワード・ヤンの映画みたいだと思った。

電子版の『歩道橋の魔術師』には、天野健太郎訳に、及川茜訳の短編が一つ追加されていて、1冊で二人の訳者の訳を読めるのもうれしかった。特に、いちばん最後に収録されている、及川さんが訳された双子の話が、「二つの中国」に二枚舌を使う「外国」、あるいは、「中国が二つある状態」に対する決断を保留し続ける「台湾」の話のように読めて興味深かった。

天野健太郎の訳者あとがきに加え、東山彰良の解説もあって、こちらも読みごたえがある。私が『歩道橋の魔術師』に出てくる中華商場の存在を初めて知ったのは、東山彰良の『流』を読んだときだった。

PODCAST S2 EP2

シーズン 2 のはじまりはじまり! エピソード2をお届け。

1)きょうこりんがキャットタワー購入で撃沈した話をしてます。

2)姉御おすすめのドイツのドラマ『 The Empress/Die Kaiserin』(ネットフリックス)について話してます。シシィこと、オーストリア=ハンガリー帝国のフランツ・ヨーゼフ1世の皇后、エリザベートについてのドラマです。シシィの三部作の映画も映画もお勧めだそうです。

3)オードリー・ヘップバーンの『シャレード』についても話してます。ジバンシーの服が超おしゃれ!同じスタンリー・ドーネン監督でソフィア・ローレン+ディオールの『アラベスク』も見たけど、オードリー・ヘップバーン+ジバンシーのほうがインパクト強いのです。

今回の収録で触れた作品:

  • 『 The Empress/Die Kaiserin』(ネットフリックス)
  • シシィの三部作『プリンセス・シシー』『若き皇后シシー』『ある皇后の運命の歳月』
  • 『シャレード』

EP1で加齢について話したいと言っていたのに、全然話してない!!

Spotify だけでなく、アップルポッドキャスト、グーグルポッドキャストでも聞けます。「きょうこりんと姉御」で検索してみてね。

PODCAST S2 EP1

シーズン 2 のはじまりはじまり! エピソード1をお届け。

1)夏休みにロンドンでエリザベス女王の国葬に遭遇したことや、スイスについて話してます。

2)9月初めはトロント国際映画祭がありました。姉御は21本も映画を観たそうです! 一緒に観たわけじゃないけと、サラ・ポーリー監督の『Women Talking』について話してます。姉御の映画祭の感想も!

3)シーズン2では「加齢」について、姉御が話したいと言っています。お楽しみに。

今回の収録で触れた作品:

  • 『Women Talking』 ミリアム・トーズ原作、サラ・ポーリー監督。収録のときに言い忘れましたが、原作の小説は、映画の中で議事録を書いていた男性の語りになってます。映画も一応そういう作りになってます。
  • 『ウヨンウ弁護士は天才肌』 英題は『Extraordinary Attorney Woo』

2カ月休んでいる間に、また滑舌が悪くなって、話下手に戻った気がします。今さら話上手になろうとは思わないけど、もうちょっとましな話し方はできないもんだろうかと思いました。

Spotify だけでなく、アップルポッドキャスト、グーグルポッドキャストでも聞けます。「きょうこりんと姉御」で検索してみてね。

Perversion of Justice

著者はアメリカの地方紙「マイアミ・ヘラルド」のジャーナリスト、ジュリー・ブラウン。ジェフリー・エプスタイン逮捕にいたるまで、彼のセックス・トラフィッキングの犠牲者たちを説得して地道に取材を続けた過程がわかる本です。

アメリカの司法制度がわからないと難しい点もありますが、それをすっとばして、エプスタインの斡旋で16歳未満の女性たちとセックスをした「世界的に有名な男たち」、「アメリカの諸領域で重職に就いている男たち」の名前はもちろんのこと、エプスタインを長年にわたり法の裁きを受けさせないよう、特別な計らいをした人々の名前を心に刻むだけでも価値があるかもしれません。それにしても、こういうスキャンダルが起きるとすぐに名前が出てくるビル・クリントンやドナルド・トランプのような人たちがいるかと思えば、バラク・オバマのように絶対に名前が出てこないクリーンな人はいるんですよね。

この本に魅力を添えているのは、著者のジュリー・ブラウンがワーキング・シングル・マザーであって、元夫もあまり頼りにならない状況で二人の子どもを育て、請求書とにらめっこしつつ、日々の生活に苦労しながら、アメリカの暗部を暴いた事実かもしれません。エプスタイン事件の取材が本書の大筋ならば、著者の私生活の苦労が副筋になっていて、人間味を感じます。

司法制度を無視できるだけの富を持つエプスタインのゴージャスな生活を垣間見たいなら、ネットフリックスの『ジェフリー・エプスタイン: 権力と背徳の億万長者』がいいかもしれません。でも私は、ジュリー・ブラウンに投げ銭するつもりでこの本を買いました。なので、読んだのは英語版です。

原題になっている「Perversion of Justice」という言葉が、著者にとってどれだけ大切だったかが原書には書かれています。エプスタインそのものが怪物ですが、そういう存在を許してしまう「歪んだ司法制度」を暴いた本だから。

『ジェフリー・エプスタイン 億万長者の顔をした怪物』という邦題で、日本語訳も出ています。

読書会8 – ビルバオ-ニューヨーク-ビルバオ

先月はコロンビアの小説だったけど、今月はスペインで、キルメン・ウリベの『ビルバオ-ニューヨーク-ビルバオ』(金子奈美訳)。といっても、もとはバスク語で書かれた小説。

私はバスク語もバスク文化も知らない。かろうじて、「この辺がバスク地方」と地図で指させるのと、フランコ政権による弾圧の歴史があって、独立を目指す過激グループがいたことを知っている程度の知識しかない。

でもそんな予備知識は不要かも。バスク地方に生まれた主人公(つまり作者)は、バスクの大きくて重い歴史など背負っていない。主人公は、バスク人なのになぜかフランコ側についていた祖父のことを知ろうとするが、過去を遡っている間に、いろんな人から聞いた思い出話を断片的に、芋づる式に次から次へとひっぱってくる。いたって個人的な語りは、「結局何の話が始まるのかな?」とこちらが不安になるほどだ。ただ、ひとつひとつの思い出話に余白があって、妙に興味深く、グーグルマップでうんと拡大しないと見えないような、小さな島々の話も出てくる(セントギルダ島やロッコール島。ロッコール島なんて岩だもんね)。そういう世間には無視されがちな話を、主人公はニューヨーク行の飛行機の中で振り返る。

読みはじめて3分の1くらいまでは、フェデリコ・フェリーニの『8 1/2』みたいな話なんだろうか?と思って読んでいた(映画の構想を練りたいけどアイデアが浮かばないって話)。登場人物がやたらと多く、あとで重要になるかもしれないからメモっとこ…… なんて努力は途中でやめた。「なぜそんなにディテールをがっつりと掴みにいこうとするんだ? もっとリラックスして読めば?」と自分に注意を促すほどだった。

「面白いかも?」と思いはじめたのは、半分をすぎてから。誰かの心をえぐって見せるような書き方でないのが心地よい。たまたまバスクに生まれた男の人が、自分の系譜をさかのぼりたい気持ちが、中年の私にはちょっとわかる。もしかしたら、自分の居場所の確認なのかも、とも思った。

それと同時に、こういう少数言語を操る人々やその人たちの文化を「底上げしてくれる場所」として、ニューヨーク・シティが登場するので、やっぱりニューヨークを見直した。

しょっぱなから、ぐいぐいと読者(あるいは視聴者)の興味をひきつけるものが多いなか、感情がじわじわとあとから押し寄せる書き方が好きになった。でもそれは、読書会でメンバーの感想を聞いて、そう思えたところも大きい。読書体験を後押ししてくれる読書会や書評ってのは重要だと思った。

にしても、明確な起承転結はないから、ストーリーにぐっと引き込まれたい人には向かない小説かも。