ゆきゆきて、神軍

今年の終戦記念日には『ゆきゆきて、神軍』を観ました。この映画の英語タイトルで検索すると、インターネット・アーカイブで無料で観ることができますし、アメリカやカナダにお住いの人なら、The Criterionでも。英語は、『The Emperor’s Naked Army Marches On』です。

最後まで観たけど、精神的にきつかったです。『野火』みたいに映像がグロいわけではまったくありません。本当に人肉を食べて生還した(であろう)人たちに真実を述べよ、と奥崎謙三が迫っているからです。

奥崎謙三のことも、彼が執拗に訪ねる元日本兵たちのことも非難する気持ちにはなれません。何も言えない。どこに向けて言えばいいのかわからないけど、為政者の都合でこんな思いを味わされるのはごめんです。

帰還兵の証言を集めた本なども重要ですよね。

読書会7 – 雌犬

今月はラテンアメリカ文学。コロンビアの作家、ピラール・キンタナの『雌犬』です。村岡直子訳。タイトルと表紙が既に不穏じゃないですか? 決してかわいいワンコの話ではありません。

主人公ダマリスは子どもに恵まれないまま、妊娠可能期の後半にさしかかっている。そこへ、生後まもない雌の子犬を引き取り、溺愛して育てる。その犬には、もし自分に子どもが生まれたら付けたいと思っていた名前を付ける。でも子どもが欲しくてたまらない自分の気持ちを人に気づかれるのが嫌で、人前ではその犬を「雌犬」と呼んでいる。ある日、その犬が逃亡し……

……という話なのですが、舞台はコロンビアの太平洋沿岸のジャングルを背にした崖の上。崖下には閉塞的で、逃げ場のない貧村。現代的な医療よりも呪術がまかりとおっているようなところだから、人間の不妊治療も、犬の避妊手術もない。そういう土地で、母性、母と子の関係性、女であることの意味、自然の暴力性を読者に考えさせるような作りになっています。

短い小説だから、これ以上のことはネタバレになって書けないけれど、テーマは何かと聞かれたら、「妬み」と答えるでしょう。妬みを人に気づかれないように隠すこと。読書会では、この「妬み」について、脱線しつつ、いつもより長めに話し合いました。あとがきに書かれている、ピラール・キンタナの人生もワイルドです。

とても短い小説で、平明な文章で書かれ、外国の知識もあまり必要としないので、海外文学をいちど読んでみたいと思っている人にはとっつきやすいかもしれません。

ところで、私は電子書籍でこれを読んだのですが、「紙版の裏表紙のデザインが意味深」と聞いたので、紙版を持っている人に裏表紙を見せてもらいました。表と裏を合わせて意味を持つという、すばらしいデザインじゃないですか! 電子版にも入れてほしかった!

The Dropout

なぜか私は番組名を『The Droplet』だと勘違いしていました。正しくは『The Dropout』。そう言い間違えてしまうのは、注射器を使わず、血を一滴採血すれば、いろんな検査ができるテクノロジーを開発したと豪語していたエリザベス・ホームズの話だから。

このドラマも、『令嬢アンナの真実』も、アメリカの超富裕層に食い込む「突破口」を見つけた瞬間に、自分に流れ込むお金の金額がとんでもないレベルに跳ね上がり、それに比例して嘘のスケールも大きくなります。つまり、お金が有り余っている超富裕層へ「つなぐ人」を見つけだすしぶとさと、はったりをかませる能力が重要ということなのでしょうか。

『令嬢アンナの真実』のアンナにも、『The Dropout』のエリザベスにも虚言癖があり、人生の最終目標が「リッチになる/有名になる」ことでした。もしかするとエリザベスのほうは、最初のうちは世の中を変えるテクノロジーを開発する野心があったのかもしれませんが。最終的には、周囲にいる人々が目を覚まして彼女たちから離れ、彼女たちは失墜しています。大金には無縁のジャーナリストが必死に食いつくところも、この2つのドラマの共通点です。

『令嬢アンナの真実』のアンナには愛すべき「キメ台詞」がたくさんありましたが、『The Droplet』のエリザベスには、「キメ顔」がてんこ盛りでした。目を大きく広げて、絶対に瞬きしない! 実際のエリザベスは目がぎょろっとしてて、声をわざと低くくして話していました。アマンダ・サイフリッドがその不気味さを100倍くらい増幅させていて、そこが見どころかな。あと、守秘義務契約をみんなよく守っているので、いかにもアメリカって感じがします。ドラマだけでなくて、現実でもアメリカ人は守秘義務を(訴えられることがリアルなので)よく守る気がします。ジェフリー・エプスタインを悪を暴くときも、この守秘義務契約がかなり難関だったそうです。

ちなみに、このドラマはポッドキャストをもとにして作られています。

あと、この動画を見れば、実在の人物たちの顔が確認できます。

韓国文学の中心にあるもの

韓国語の翻訳者、斎藤真理子さんの『韓国文学の中心にあるもの』を読みました。朝鮮半島の作家たちにとって、近代に半島で起きた数々の暴力が、いかに創作の原動力になっているのかが書かれています。特に韓国の作家たちの作品を紹介しているのですが、朝鮮半島で起きていた暴力を同時代の日本の作家はどう描いたかにも触れていて、とても奥行きのある内容です。

まずは『82年生まれ、キム・ジオン』の紹介からはじまり、どの章も中身が濃く、読んでいて重苦しい気持ちにもなるのですが、どうして私は隣国のことをこんなにも知らずにいたのだろう、という思いでいっぱいになりました。いつの間にか読みたい本がどんどんと増えていきました。

私が現代の韓国の作家に初めて触れたのは、ハン・ガンですが、彼女の作品を英語で読んでいました。コロナ禍のあいだに、書評講座を通じて何人かの韓国語の翻訳者さんと知り合い、『キャビネット』を熟読したのをきっかけに、韓国の作品は和訳で読むべきだと思い至りました。今、私の積読は韓国文学でいっぱいです。きっと、いろんな作品を読みながら、この『韓国文学の中心にあるもの』を何度も開くような気がします。

朝鮮戦争時に日本はアメリカ軍の補給基地になり、朝鮮特需を経験して戦後不況を脱しましたが、私の祖父は1948年に化学工業の会社を何人かと一緒に起業しているので、業種的に朝鮮特需を狙ったのかなと、やや複雑な気持ちに……

毎年、終戦記念日の週に太平洋戦争についての映画を観ることにしています。今年は何を見ようかなと考えていたところへ、『韓国文学の中心にあるもの』を読んだので、今年は韓国の映画を観て、この本に書いてあることを反芻しようかな。配信で見つかるかな…… 

PODCAST EP12

エピソード12をお届け。

1)シーズンフィナーレの今回、なんと、姉御はローマからの収録!ローマの話をしてます。「フィレンツェ」のことを「フローレンス」と言ってますが、英語圏での暮らしが長くなると、英語発音になってしまうのですよ(トホホ)。

2)きょうたんが収録中に思い出せなかった小説の名前は『Midnight in the Garden of Good and Evil 』(クリント・イーストウッドが映画化してて、邦題は『真夜中のサバナ』)。本当にあった事件をもとに書かれた小説で、撮影はすべてサバナで行われてます。

3)『Everything Everywhere All at Once』についてしゃべってます。

4)シーズン1を総括してます。野心もなく、なんとなく始めたポッドキャストでしたが、じわじわとリスナーさんが増えていったのは驚きでした。みなさん聞いてくれてありがとうごさいました。

5)シーズン2は9月中旬から10月初旬の間に配信する予定です。お楽しみに!

Spotify だけでなく、アップルポッドキャスト、グーグルポッドキャストでも聞けます。「きょうこりんと姉御」で検索してみてね。