Y日記44

今回はもはや日記ではない。明らかに他者に向けて書いているから。でもタイトル付けるのめんどうだから日記のままにしとく。

残念な知らせが飛び込み、意気消沈していたところ、すてきなものが届きました。これは、私の翻訳書&同人誌を集めたパラパラ作品集です。グラフィックデザイナーの友人に作ってもらいました。

6月にソウル国際ブックフェア、10月にフランクフルト国際ブックフェアに行く予定なので、韓国、日本、ドイツでこれをパラパラしてこようと思います。

……とまずは気分が盛り上がるところから書きはじめてみました。ここから急降下。

がっくり項垂れたのは、持ち込んだ作品の版権がとれなかったから。二人三脚でいい線までいけたのに残念。版権料が予想外に高かったそうです。私はいままで版権料が高い本を訳したことがなかったから、びっくりでした。自分が訳した全作品の版権料を知っているわけではないですが、知っているものに関しては、「へぇ〜、そんなもんなのか。私でも払えそう」というレベルだったので。

あえなく企画は散ったわけですが、今、2冊同時進行で訳しているのでそれに専念します。お気の毒に……と思ったら、「こんな本を訳しませんか?」とお声かけいただければうれしいです。風変わりなノンフィクションで、「これを誰に訳してもらえばいいんだろう?」なんてタイトルがあれば、たぶんそれは私向きでしょう。レジュメをまた書こう。ピックルボールを控えめにして(言っている先から、できそうにない)。

先週書評講座をやって、今回も、字数制限もなくだらだら文章書いても上手くはならない、という話が出ました。確かにそう。講師に毎回言われていることなので、私は書評を書くとき、800字の字数制限を課し、4月からはトロントの生活情報誌Torjaに書評を載せてもらっています。もちろん800字で。文章はさらしてなんぼだよなと。この書評コラムはBookpottersとして獲得したので、Bookpottersのみなさんは是非書評を書いてください。

文章をさらすといえば、出身校が創立150周年を迎え、卒業生会(?)がニュースレター特別号を出すということで、短文の募集があり、「女子大」の存在意義について書いてみようと思い立ち、自分の黒歴史をさらけ出してみました。自分の身に本当に起きたことをさらけ出すのは思いのほか勇気がいるし、黒歴史に関わる人のこともさらすことになるので、そこをよく考えなきゃいけないしで、書きづらかったんですが、書いちゃいました。ロクサーヌ・ゲイが自分のトラウマをさらけ出した経験を書いていて、それを参考にしました。彼女が味わった苦しみとはレベチのことをさらしただけですが。

今日は全然やる気が出ない。

Y日記43

トランプの相互関税のせいで中国との経済戦争が激化するなか、太ったアメリカ人がいろいろな製造工場でものを作っている動画がSNSで回ってきた。中国の労働者に比べると、妙にのっそりと作業しているし、あれは中国が流しているプロパガンダだと人から聞いた。

それを見て感慨深かった。世の中の流れが変わったと思った。これまでは、ステレオタイプ的なアジア人労働者がからかわれることが多かったように思うけど、堂々とアメリカのプラットフォームで、ある種のアメリカ人をバカにした動画が出回るようになったのだね、と。昔から『ボラット』のような映画ではバカにされイジられていた種類のアメリカ人、世界一お金持ちの国アメリカにいる貧困層が、正面切ってバカにされている。

とはいえ、アメリカに手工業的な工場はあんまりない。そういう工場が戻ってきたとしても、ロボットにやらせるかもね。昔、内視鏡を作っているアメリカの工場に通訳で入らせてもらったことがあるけど、そこにはいわゆる白人はいなくて、ぱっと見た感じ、みんなフィリピン系の人たちだった。自動車工場で見かけた人たちも、プロパガンダの動画で描かれているのとは違って、のそのそなんてしていなかった。

世の中が逆転しはじめたのだから、今後、中国やイランが「アメリカが自国民の人権を守らなければアメリカとは取引しない」なんて言い出す日も来るかもしれない。

カナダでは、1970年代に「キャプテン・カヌック」というコミックキャラクターが生まれ、昨今のアメリカとの関係悪化から、このキャプテン・カヌックの人気が再燃しているらしい。でも、見た目が限りなくアメリカのスーパーマンを踏襲しているところに、カナダのアメリカ依存ぶりを感じた。1970年代に登場したのだから、ベトナム戦争に反対して生まれたキャラなのかも。でも、私がスーパーヒーローキャラを今作るとしたら、普段は野生動物なんだけど、メイプルシロップを舐めるとスーパーヒーローに変身する設定にすると思う。

https://www.cbc.ca/player/play/video/9.6686971

Y日記42

4月2日、トランプ政権が相互関税の導入を発表したので、カナダでも大騒ぎ(カナダは追加関税の対象からはずれていたので、やや拍子抜け)。その後に株市場暴落が’続く。ニュースを見ると世界は大騒ぎなのだけど、わたしはピックルボールの仲間と平和にチャットで大喜利的な冗談を言い合っていた。私以外は日本語を解さないので、大喜利ではないが、「Pickleball」を下ネタっぽくネーミングするというおふざけをしていた。こういうとき、私は語学力を発揮して人を笑わせることができる。

前日にはピックルボールのプライベートレッスンをとった。オンタリオ州で$200ドルのばらまきがあったので、それを使ったった。インストラクターは韓国系カナダ人。互いに平たい顔の民族なのは安心感を呼ぶ。サクッとした性格で教えるのも上手だった。オンタリオ州、もっと現金をばら撒いてくれ〜。

ある人とおしゃべりもしていたら、生まれてすぐに養子としてカナダに来たのだけれど、もうすぐはじめて韓国へ行くと言う。生みの親の情報は一切知らされていない。でも誕生の地へ赴くだけでもビッグイベント。「おめでとう」と声をかけた。過去に養子問題専門のセラピーをしばらく受けていた経験があるからなのか、こういう「引き寄せ」がたまにある。私は「夫婦二人の生活をまず楽しんで、あとは養子をもらえばいいじゃない?」的な軽々しい言葉を耳にすると心がざわつく。考えてみてもほしい、あの制度が大人視点で作られていることを。まあ、わたしもかつては深く考えていなかったのだが、軽々しく考えるのとは次元が違う。

だから私は孤児や、「お前は小さいときにお母さんに見捨てられたんだよ」と言われ続けて育った人が主人公の小説に引き込まれる。だから持ち込みたいタイトルがある…… となぜかここで仕事につなげてしまうのはフリーランスの習性。

最近、韓国映画『タクシー運転手』を見た。1980年の光州事件の映画だから、ふと思ったが、この韓国からカナダへ養子としてやってきた人は、その頃に生まれたのかも。この映画の英語のタイトルが「A Taxi Driver」で、アメリカ映画の「Taxi Driver」とタイトルが似てるからややこしい。「え?」と相手が勘違いしてそうだと、タクシーの運転手がソン・ガンホなのか、ロバート・デニーロなのかをはっきり言わねばならない。

他に最近見た映画は、『リアル・ペイン(A Real Pain)』、『The Wild Robot』、『自虐の詩』、『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』、それと『ナポレオン』。『リアル・ペイン』の邦題に「心の旅」と副題が付いてた。副題って解釈をある方向に引っ張るよね。そこは視聴者に100%委ねてほしいといつも思う。副題って付けてほしい人多いのかな。『ナポレオン』は軍服や貴族の衣装がやっぱりすごいね。特に軍服。ここんところ、ずっと歴史衣装のことばかり調べてるから。と、また仕事の話になってしまった。

Y日記41

1月末、日本一時帰国中に蛇窪神社でおみくじを引いたら、「思うようにならぬとて心をいためず、時節のいたるをまちてよし」と書いてあった。なんか、その言葉どおりのことが起きている。ありがとう、神様。

『セヴェランス』のシーズンフィナーレを見終わった。この話はどこへ向かうのだろう……と思っていたところへ、結局はそこか!! と思わなくもなく、「この野郎、マーク!」と画面に向かって毒づきそうになった。同時にディランの株が上がった。次のシーズンが楽しみではある。

『セヴェランス』が終わってしまってどうしたらいいんだ……とピックルボールの仲間に相談したところ、複数の人が『White Lotus』と口を揃えたので、この間ストリーミングのサブスクを整理したところだけども、CRAVEに加入することにした。こうして私のサブスク貧乏は続く。それどころか、Audibleのお試し期間をキャンセルし忘れたので、サブスク貧乏に拍車がかかっている。

『Conclave(教皇選挙)』をストリーミングで見た。ローレンスが中間管理職みたいにあちこちで板挟みになりつつ、粛々と裏情報を集める姿に共感。でも、一番面白かったのはベリーニ。いかにもアメリカ人という感じだったから。今の教皇も体調がすごく悪そうなんで、現実に教皇選挙が起きそう。

ピックルボールの仲間がデートアプリで知り合った人と数回デートしたものの、うまくいかなかったらしい。私はデートアプリにお世話になったことが一度もない、と話したら、「うらやましすぎる」と言われた。チャット→コーヒーデート→レストランデートと手順を踏んでいくあいだの浅い会話に飽き飽きしているらしい。まあ、相手にドキっとしなかったってことなんだろうけど。ピックルボールで誰かと知り合うのがいいような気がするけど、年寄り多めだし、どうなんだろうか。

自分の書いた書評をローカル情報誌に晒すことにした。書評を書かせてもらう場所もなく、書き方だけを学んでる自分に空しさを感じていたから、これでいい。書評講座のおかげだと思うんだけど、本の感想を聞かせてと頼まれることが増えてきて、それが仕事につながってる。なんだろ、すごい遠回りをしているうちに目的地に着いたかんじ??

無駄っぽいことをしてるほうが楽しくて、実はいいことにつながるって誰かが言ってた気がする。誰だろう?

Y日記40

先週、ピックルボール仲間と飲み歩いた。10人くらいで。そんな大人数だから、行けるところは限られてくるけど、スパゲッティを食べながらディスコというコンセプトの、オシャレ感ゼロの、だけど、仲間で騒ぐ気満々の人にはうってつけの店に行った。天井に、古めかしいかんじのディスコボールがきらきら光って、ピンクがかった照明で、全然気取らないかんじがよかった。そこから3軒はしごした。

帰りは同じ方向に行く男の子とライドシェアして、「あれがおれの住んでいるマンションだ。今から家の照明をチカチカさせるからな!」と言われ、スマホで遠隔操作する姿と遠くに見えるマンションを交互に見た。確かにおもしろい。「見えた!見えた!」と喜んでしまった。

たぶん、私の今の社会生活のほとんどを占めているのは、このピックルボール仲間と、書評講座の仲間といってもいい。で、あとは仕事ね。今週は、前々からの懸念事項が前進したようで、ややうれしい。本当はかなりうれしいのだけど、他人の不幸が土台にあるので、ガッツポーズは控えたい。

それと……

101歳のお友達が亡くなりました。お別れは近いと思っていたし、最後にお別れの挨拶にも行けたけど、さみしいです。同志社女子大学英文科がまだ専門学校と呼ばれていた時代の大先輩です。お父様が英文学者だったから、その時代の女性としては先進的な考えを持っていて、聡明で、おだやかで、おもしろく、いつも美しい言葉で話し文章をお書きになる人でした。誰かが「顔を合わせると嫌な気分になる人がいる」と相談すれば、「大丈夫。みんな結構先にお亡くなりになりますよ」的な、100歳超えならではのジョークを飛ばす人でした。

最後に病室を見舞ったときも、寝姿を見て「お別れが近い……」と思ったのですが、名前を呼ぶと、ぱちっと目を開き、「100歳超えると、まさかって思うようなところにガタがくるのよ」とおっしゃった。ベッドには、大好きな猫のぬいぐるみがいっぱいで、「私もできるだけふわふわで手触りのいい猫のぬいぐるみに囲まれて最後を迎えたい」と思ったものでした。そう、最後の最後まで、人生の先輩でいらっしゃったのでした。

船坂まりさんの書かれた戦争体験手記「清水さんをおもう」は、暮しの手帖『戦中・戦後の暮しの記録 君と、これから生まれてくる君へ』の中に入っています。本当は、「軍事郵便」という題を付けたのに、別の題に変えられてしまったと残念そうでした。

「しみじみと別れ行く日の豊菊かな」

まりさんの初恋の人、清水さんが、まりさんと京都でお別れしてのち戦地から送ってこられた句です。これが「軍事郵便」で送られてきたのです。

まりさんには私たちのポッドキャストにゲスト出演していただき、その人生をおうかがいし、3回に分けて配信しました。音質が悪いですが、よかったらどうぞ。