ある一生

この本は確か二年前の日本翻訳大賞で紹介され、知り合った本です。

これといって取り柄があるわけでもないある男が、アルプスの山の中で、粛々と自分の人生を歩む。時代は第二次世界大戦を挟んでいるし、ある意味、自分らしい人生を送ることが困難だった時代なのかもしれない。それでも、この男はひたすら静かに生きていく、それだけの話なんです。

少し話は飛びますが、バイデン政権がアメリカ軍をアフガニスタンから撤退させると4月に表明してからというもの、アフガン人でアメリカ側に加担した人々のことを思って胸を痛めています。いつかは撤退しなくてはならなかったので、そのこと自体は驚きでも何でもありません。先日のYouTubeライブでも話しましたが、私はアフガニスタン戦でアメリカ側について命がけで働いた通訳者のことも描いたノンフィクションを訳したので、心穏やかではありません。そういう中で、『ある一生』は私の心を慰めてくれました。

『ある一生』の主人公は非常に男臭く、ハイジの「おんじ」みたいな人。どれほど世界情勢に振り回されようと、自分の村が観光地化されようと、ひたすら自分の人生を生きて全うします。幼いときに里子に出されて虐待も受け、ソ連で強制労働させられるので、人並み以上の苦労を味わっています。戦後は再びアルプスの山に戻って静かに暮らし、人並みの幸せも手にします。長い一生から見ると一時ではあるにせよ、心貧しい大人や戦争に振り回された体験は、その男の「人生の一頁」でしかありません。渦中にいるときにはそうは思えなくても、生き残ることさえできれば、苦難の時期も「人生の一頁」として刻まれ、お迎えが来たら抵抗をせずにこの世を去る…… そういう「あたりまえのこと」が心の琴線に触れました。

最近、炎上発言をしたユーチューバーの一件や、中国の「寝そべり族」(英語では「Lie Flat」というようです)、日本の「ひきこもり」なども思い出しながら、精神生活の貧しさ(あるいは豊かさ)について考えています。他者の期待に応えようとして一途に頑張っても、一人の人間の「アウトプット」はそんなに変わらない。なのに「頑張れば」平均をはるかに上回ることができるかのような幻想に踊らされてしまう。 もうそんなダンスシューズは脱いでしまいましょう。

「金のカモシカ亭」に行きたい(笑)

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