セルフブランディングについて

通訳翻訳ジャーナルの冬号に、セルフブランディングについてインタビューを受け、記事にしてもらいました。どうして「わたし?」なのですが、結果的には、自分が関わっている活動を宣伝できたし、結構いいこと言ってるんじゃない?と思えたので、インタビューしていただいて本当によかったです。詳しくは通訳翻訳ジャーナルを読んでいただくということで、ここでは、インタビューで話しきれなかったことを書きます。「出版翻訳者」のセルフブランディングについてです。

とりあえず、ここにいますよの表明

大手弁護士事務所から独立した弁護士が、事務所と机を用意したはいいが、問い合わせすらこない。暇そうにしていると、「あなたが独立したことを世間は知っているのですか?」と人に訊かれ、はっとした、という話を聞いたことがあります。

  • 検索したら「自分」にヒットするデジタルな場所
  • 仕事くださいのメールを出すときなど、自分のプロフィールや実績を紹介できるリンク

この2つはあったほうが便利です。それに、SNSのノイズを取り払いながら、自分の関心事についてゆっくり書ける場所はあったほうが私には合っています。自分の文章を磨く意味もあって、ブログやニュースレターを書いています。そうしたものをわざわざ読みにきてくれる人は、ある意味、理由があって読みにくる。書きたいときに書けばいいと思います。

翻訳者のブランドって?

そもそも原著があって、その日本語版を出したいと思う出版社がいなければ成立しない職業なのだから、ブランドなんていらないんじゃないかという意見がありますよね。

ですが、第一線で活躍する翻訳者さんを見ていると、明らかに、その方たちの何か、たとえば、翻訳力、表現力、ユニークな視点、トークの面白さ、人柄が人気の秘訣になっていますよね。それはつくられたものではなくて、本人の内面からにじみ出るもの。

何が言いたいかといいますと、媒体は何でもいいですが、自分が大切にしていることが人にわかるように書いておくのがいいんじゃないか。それを積み重ねれば、おのずとセルフブランディングになるんじゃないかと思います。PVを稼ごうとしたり、大御所の二番煎じ的なことを書いたりするのはまったくの逆効果になるので、自分に正直に書くのが大切だと私は思います。

SNSでも、少数派意見や人気翻訳者と対立する意見を、勇気を持って理性的に述べている同業者の投稿を読むのが私は好きです。「みんないいねやリツイしてるあの案件、あの人はなんて言っているのかな」と見に行く人が、私には何人かいます。時々、実際に同業者と会って、「こうやって、冷静な分析している訳者さんがいたよ」と話すと、わりと何人もの人が同じように感じている…… これって、最強のセルフブランディングじゃないですか。

セルフブランディングはセルフプロモーションと違う

以上、セルフブランディングはセルフプロモーションとは違うということが、なんとなくおわかりいただけたでしょうか。普段考えている日記に毛が生えたようなことを書いてみたり、たまには、文字情報だけじゃなくて、画像や映像、音声にしてみたり、と私にとって、セルフブランディングは大好きなことだらけなんです。

じゃあセルフプロモーションって何なのさ?

私にとって、セルフプロモーションは「リンクをあちこちに貼り付ける」行為です。自分と距離を置くと、自分の記事をシェアするのも全然気にならなくなります。

最近はオリジナルグッズを作るのが病みつきになっているので、それを配ることもありますが、手渡した時の相手の迷惑そうな顔を見るのが怖くなければ、大丈夫です。ただ、人に嫌われると、オリジナルグッズはゴミ箱行き確定なので、環境に優しくはありません。

セルフブランディングを考えるときに参考にしている本

『アルネの作り方』

イラストレーターの大橋歩が『アルネ』という生活雑誌を一から一人で作ったときの、哲学のようなものが書かれています。無理しないで、自分の身の丈にあったものを作る方法をこの一冊で学びました。新品はもう購入できないですが。ほぼ日のリンクを貼っておきます。https://www.1101.com/store/sayonaraarne/about/index.html.

この一冊から学んだことは

  • デザイン:「大切にする。でも自分にできないことなので、できる人にお願いする」
  • 自分の関心を出す:「自分の日常をさらす、のではなく、自分の内側から出てくるものを出す」

そして、もう一冊……

『暇なんかないわ 大切なことを 考えるのに忙しくて』

こちらは、アーシュラ・K・ル=グウィンがジョゼ・サラマーゴのブログに触発されて、ブログを書き、それをエッセイ集としてまとめたものです。この本から学んだのは、自分の興味の赴くままに書き続けることや、書く勇気、かな。https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309207902/

ブログなんか古いよ、という意見

出版翻訳という仕事の一番の肝は、長文読解と長文執筆です。そして、国や時代によって、流行の言説や言葉遣いは変わっていくので、それを敏感にキャッチするには、長文が書ける媒体は翻訳者向きだと私は思います。

以上、セルフブランディングについて書いてみました。出版社が立ち並ぶ街の近くに住んでいて、編集者と顔を合わせる機会に恵まれているなら、必要ないかもしれません。私はそういう機会に恵まれていないので、ブログやニュースレターを書いています。

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2023年は熱くならない

えっと、気候の話じゃありません。

私は、お金を貯めたいときをのぞき、どちらかというと自分のしたいことしかしないタイプです。自分が面白いと思うことにはお金が渦巻いていないので、必然的にそうなります。

2023年は熱くならずに、しらっといきたいです。そういうと、2022年が熱かったみたいに聞こえますが、別に普通でした。やりたいことはたくさんあり、それをこつこつ地味にやりたいです。がつがつはしたくないです。

最近やっと、アメリカで有名な連続殺人犯を題材にした『Dahmer』をNetflixで全部観ました。非常に面白かったです。モーリー・リングウォルドはどこにいるのぉ、と探していて「これか!」と驚きましたし、犯罪を繰り返す温床になっていた人種差別と精神疾患への無理解がクローズアップされてることに、「今っぽさ」を感じました。

あと、このドラマを観ていて、居住国の言語をきちんと話さないと、肝心要のときに弱者扱いされることを改めて思い知らされ、「ちゃんと話そう……」と真剣に思いました。だからというわけではないですが、Duolingoでフランス語を勉強し始めました。超ド級の初心者レベルです。「それは馬です」程度の文章は言えるようになりました。楽しいです。

今年もいろいろ翻訳する予定ですが、もっと翻訳のスピードをあげ、遊ぶ時間が欲しいです。遊ぶっても、本読んで配信見て、それについてぺちゃくちゃおしゃべりしたいっていう程度ですが。

去年買ったノイズキャンセレーションのヘッドセットをして、散歩や買い物に出かけることが多いのですが、時々人に話しかけられても自分の声がよく聞こえないので、すごく大きな声で「おはよう!」「こんにちは!」「ありがとう!」と返事してます。近所の人たちに「元気な人」と思われている気がします。

最近、北国の都会暮らしがきついです。雪が降っても全然美しくない。すぐ灰色のどろどろのシャーベット状になります。災害は多いけど、年がら年中何かしらの花が咲いているカリフォルニアがなつかしい…… というわけでカリフォルニアに行くぞ! 待ってろよ!

さよなら2022年

あらら、もう年末。今年も盛りだくさんだったと思う。

久しぶりに外国へ休暇に出たし、日本へも一時帰国できた。遅い夏休みだったロンドンとスイスの旅は、あろうことか、エリザベス女王の国葬と重なり、とても貴重な体験ができた。あの場の空気を吸えてラッキー!みたいな程度ではあるが。バッキンガム宮殿周辺を埋め尽くす花束の山、宿泊のホテルの前を通っていたあの棺…… 何年か経って、「あのときどこで何をした?」と人と話すときのために、忘れないでおこう。

にぎやかなロンドンを離れ、スイスに着いたとき、「静けさが心地よい」と思ったのは、やっぱり年齢のせいかもしれない。18年前と何ら変わらないような景色……と思ったが、実は微妙に変わっている。レマン湖の壮大な景色を前に、私はジュネーブのパテック・フィリップ時計美術館で小さな時計をしげしげと見ていた。ミニチュア好きにはお勧めしたい。昔々は限られた人々しか時間を知ることができなかった。だから時計は豪華で美しかった。人が時計を携帯するようになり、でもまだ腕に付けていないときの時計は、小さくて、フルーツや虫の形をしていたり、ピルケースやお化粧のコンパクトの形をしていたり、心がときめく可愛さと美しさがあった。時計が一気に可愛くなくなったのは腕に付けるようになってから。そしてその頃から、人間は時間に追われるようになった……。

スイスでは仕事で家人が滞在していたローザンヌを拠点に、あちこちを回った。乗り継ぎでもたついたことがあって、全力疾走したつもりが、家人いわく「全然走ってなかった」らしい。それもそのはず、骨盤骨折以来、はじめての疾走だったのだ。

日本帰国時には、限られた時間内で友人や家族との時間もとれたし、おしゃれウィッグも手に入れたし、神戸三宮で久しぶりにゆったり時間を過ごせたのもよかった。三宮も家人が仕事で滞在していたのだが、街がコンパクトで結構気に入ったとのこと。

来年はもう少しいろんなところへ足を伸ばしたい。そういえば、2022年の初めにニューヨークにいくはずが行けなかったことを思い出した。残念過ぎた。リベンジしたい。

新しいことをはじめたという意味では、やはりポッドキャストに勝るものはない。編集など、それなりに面倒なこともあるが、編集が楽になるように話す意識をするところまではきた。収録はいつも楽しいし、ポッドキャストを通じて親しくなった人もいるし、遠くに住む友だちや家族を身近に感じられるのもよかった。

2022年も翻訳の仕事は忙しかった。ありがたい。4冊翻訳したのかな?年をまたぐプロジェクトもあるからよくわからない。もっとスピードあげて、もっと翻訳したい。企画する時間がもっとほしい。半導体の業界史のような本を見つけて、企画書書いて、私にしては超特急で動いたのに版権取られてた。英語版出てからオーディオでさらさら聞いたけど、結構いい内容。まだ翻訳者決まってないなら、翻訳したいので声をかけてください。どこの出版社が版権をとったのかまではわからないので。タイトルは『Chip War』

ファッション関係の本を2冊訳して、参考資料もいっぱい読んで、俄然ファッションに興味が出てきたので、ファッション史の講座を半年とることに。実はファッション史の中で、興味のある時代がある。ちょっとその辺、がんばりたい。

来年は1冊、今までとは違う形の仕事が入ってる。多くは語れないけど楽しみ。

文芸翻訳の勉強を続けているけど、なぜかこれがノンフィクションの翻訳にすごく役立っている。ここで説明するのは面倒くさいからやめとくけど。この文芸翻訳の勉強会から派生した読書会も、もう1年も続いてる。こちらも「深読み」の訓練になっている。

あとは書評講座!かれこれ3回開催したけど、最高やね、これは。学びの量が半端ない。他の人たちからいいアイデアを提案してもらって、「アフター書評講座」のスペースもやれたし。4回目もやる!

日本の人口が激減しているせいもあるけど、日本では本の売上が年々下がっている。カナダでも減っているのではないかと思うけど、カナダの書籍の売上の41%はヤングアダルト。つまり、若い世代が結構読んでる。本屋の売り場を見てもそうだろうなと思う。大人の本が少なく、SNS頼みの陳列(それはよいと思うけど)。ニューヨークタイムズで、デジタルにうんざりしてて、本を読むなら紙、文具も好き、スマホから離れないと頭を動かす時間が減ると考えるデジタルネイティブ世代の子たちについての記事を読んだ。うちの姪っ子も読書好きで、友だちと一緒に本読んでるって言ってたし。

来年はもうちょっとブログ書こうかな。前みたいに、日常的なことを。

長くなったけど、2022年はこんな感じだった。2023年もよろしく!!

ムーミン読んでます

北欧の同業者さんから、「この順番で読むといいかも」と教わり、ムーミン全集(9冊)を読んでます。おそるべしムーミン…… 荒唐無稽なムーミン一家の行動のなかから、「自分の好きなことをやって生きるのは幸せですよ」と重大なメッセージが漂ってきます。もっと子どもっぽい話かと思っていたら、夏が短いことを知っている北国独特のもの悲しさが全体ににじんでいて、少し怖さもあります。全集を読みつつ、そのうち、トーベ・ヤンソンの短編集にも手をつけようと思います。

ちなみに、ムーミンキャラクターにたとえるとしたら、私は「ムーミンママ」なのだそうです。自分でも自覚はあるな。

『ムーミン谷の彗星』には、「ニョロニョロたちは、どこかにあるあこがれの地をめざしているけど、どうしてもたどりつけないんだって……」と書かれていました。はじめて知りました。

フィンランドにはムーミンがあっていいなと北欧の同業者にもらしたら、「カナダには赤毛のアンがあっていいじゃないですか!」と反論されました。でも、赤毛のアンの最大の弱点は、原作にイラストがないため、いろんな絵柄の赤毛のアンが存在することです。つまり、キャラクターグッズになれない。「赤毛で三つ編み、そばかす」を盛り込んでおけばいいわけではなく、うっかりするとウェンディーズ(ファーストフードの)のロゴになりかねません。