読書会7 – 雌犬

今月はラテンアメリカ文学。コロンビアの作家、ピラール・キンタナの『雌犬』です。村岡直子訳。タイトルと表紙が既に不穏じゃないですか? 決してかわいいワンコの話ではありません。

主人公ダマリスは子どもに恵まれないまま、妊娠可能期の後半にさしかかっている。そこへ、生後まもない雌の子犬を引き取り、溺愛して育てる。その犬には、もし自分に子どもが生まれたら付けたいと思っていた名前を付ける。でも子どもが欲しくてたまらない自分の気持ちを人に気づかれるのが嫌で、人前ではその犬を「雌犬」と呼んでいる。ある日、その犬が逃亡し……

……という話なのですが、舞台はコロンビアの太平洋沿岸のジャングルを背にした崖の上。崖下には閉塞的で、逃げ場のない貧村。現代的な医療よりも呪術がまかりとおっているようなところだから、人間の不妊治療も、犬の避妊手術もない。そういう土地で、母性、母と子の関係性、女であることの意味、自然の暴力性を読者に考えさせるような作りになっています。

短い小説だから、これ以上のことはネタバレになって書けないけれど、テーマは何かと聞かれたら、「妬み」と答えるでしょう。妬みを人に気づかれないように隠すこと。読書会では、この「妬み」について、脱線しつつ、いつもより長めに話し合いました。あとがきに書かれている、ピラール・キンタナの人生もワイルドです。

とても短い小説で、平明な文章で書かれ、外国の知識もあまり必要としないので、海外文学をいちど読んでみたいと思っている人にはとっつきやすいかもしれません。

ところで、私は電子書籍でこれを読んだのですが、「紙版の裏表紙のデザインが意味深」と聞いたので、紙版を持っている人に裏表紙を見せてもらいました。表と裏を合わせて意味を持つという、すばらしいデザインじゃないですか! 電子版にも入れてほしかった!

読書会6 – 喜べ、幸いなる魂よ

今回もYAを離れ、佐藤亜紀の『喜べ、幸いなる魂よ』を読んだ。非常に面白く、読書会で語り合い甲斐のある作品だった。

川本直がすごい書評を書いているから、詳しくはそれを読んでいただくとして。

川本さんはヤネケをすごく肯定してる。その理由にはもちろん100%同意するけど、読書会では少し違った。「ヤネケは超人的な能力を発揮し、他人にはまねのできない博愛もあるけれど、他人の心を思いやることができないないから、もしかするとその背景には??」と、ここにははっきりと書けない疑惑が浮上。

ヤネケは知的能力に優れた女性の理想郷にいる。そのヤネケが確率論について本を書く。確率論上、ばらつきがあっても、長い時間を経て、ある平均に収束する。でもその「ばらつき」こそが変化をもたらす。この論理は男女にも当てはめられている。ヤネケは「とんでもなくばらついている個体」。

そこに宗教がからめられ、オスのいない世界としてベギン会が描かれている。ベギン会とは、修道女ほど俗世と断絶していなくて、俗世にもそこそこにつながりつつ、神に仕え、宗教的な生活を営む女性たちの共同社会のこと。そして、ヤネケの実家である商家が「娑婆組」として、普通に結婚や出産を繰り返して種を絶やさずに存在し、その周縁に同性愛者(この小説では、男が男を好む人々が何人か登場)がいる。メスしかいない世界の対極には、男だけの世界がある。

読書会では、この中間にいる人物たちについても、時間をとって話した。誰に一番共感できるとか、共感しないけど、理解ができるとか。読書会で言うのを忘れたけど、私は個人的にベギン会が女子大みたいだと思った(女子大出身なので)。

読書会のメンバーは全員翻訳をやっているので、『喜べ、幸いなる魂よ』の会話、特にヤネケとヤンの口調が現代的で、ずーっと年をとっても同じ口調で話していることにも言及。翻訳者は小説家とは違うから、「原書」をリスペクトすることがとても大切。でもそれは訳すときの制約にもなる。この小説は舞台が海外で、限りなく翻訳文学に近いけど、佐藤亜紀が書いたものだから全然違う。それはヤネケの口調に端的に現れている。たとえ翻訳者が相当な勇気を出してああいう会話文を作り上げても、編集の段階で揉めると思う。小説の場合でも、揉めるのだろうか??

この小説はとにかく面白かった。絶対に読書会向き。みんなと話して倍以上楽しめた。

似たような作品で、大島真寿美の『ピエタ』も名前が挙がったので、読んでみようかな。

読書会5 – 雨の島

今回はYAを離れ、大人の小説。台湾の有名な作家、呉明益の『雨の島』を読んだ。

台湾は何回か行ったことがあるぞ! と本を開いてみると、私は台湾のことなんて、これっぽっちも知らないことに気づかされた。私は「台湾=台北」のイメージしか持っていなかった。登場人物も台湾の原住民族。そういえば、昔台湾で仕事をしていた妹が、「台南のほうは全然ちがうよ」と言っていた、と今頃思い出した。

『雨の島』は近未来の話なのに、どこか懐かしい気持ちになる。思わずエドワード・ヤンの映画が目に浮かぶ。わかりますかね、このたとえ……

台湾に生えている植物や鳥の名前など、知らない固有名詞が次々と出てくる、細かい自然描写。そして、その自然がSFとうまくマッチしている不思議さ。現実と幻想の世界を行ったり来たりしても違和感を感じない。それに、登場人物には外国とのつながりがあることが多く、小さな島国の話なのに、空間が広がってるみたいにも感じる。

6つ収録されている短編のなかでは、2番目の短編がいちばん好きだった。読書会のみんなも、これが好きだと言っていた。いちばんわかりやすい、ってのもある。

気になったのは、アンドロイドクロマグロ。これについては、いろいろと話すことが多く、環境問題、AIの将来へと話は広がり、呉明益のわなに完全にはまっている気がした。アンドロイドクロマグロの短編は、ちょっと『白鯨』っぽい雰囲気もあって、こちらも好きだな。

呉明益の作品は、いっぱい積読しているから、この夏にいろいろと読もう!

読書会4 – 秘密の花園&私のこまどり

今回はバーネットの『秘密の花園』+『私のこまどり』が課題書。Kindle Unlimitedで光文社古典新訳文庫の土屋京子さんの新訳を読みました。

少年ディコンたちが話す「ヨークシャー訛り」の翻訳が、地方に暮らす人々への敬意にあふれていると意見が一致。こういうのって、新訳を読むときの醍醐味です。土屋さんは中部地方の出身なので、私は「名古屋弁がベースになっているのでは?」と思いましたが、読者によってどこの方言を思い起こすかは違うみたい。

今、『秘密の花園』のような、植民地主義時代が背景になっている作品を読むと、貴族の「常識」にびっくりさせられます。そういう過去は、なるべく打ち消さずに、「解説」や「あとがき」で現代の批評家が説明すればよいと私は思う派です。光文社の古典新訳は、解説やあとがきがすばらしいと思います。

文庫解説については、斎藤美奈子の『文庫解説ワンダーランド』を読むと、解説者の腕の見せ所がとてもよくわかります。おすすめです。

私はディコンの動物と話せる能力、自然からいろいろなことを読み取れる能力に関心を持ちました。彼が牧童だからなだけではなくて、魔力のようなものを秘めていると思い、ちょっと聖フランシスコを思い出しました(動物の守護神なので、よく絵画などで動物たちを引き連れている)。ツイッターのスペースでこれについて話していたら、リスナーさんに、「むしろムツゴロウさんを思い出す」と言われました。

西洋と東洋では動物に対する考え方が違いますよね。あらゆるものに霊が宿ると考える東洋では、自分も動物と同じになって相手をベロベロなめるムツゴロウがいて、西洋だと動物を守ってあげる聖人がいる、という違いかも?と読書会のメンバーに教えてもらいました。黒柳徹子が「私は動物と話せる」とよく発言していますが、あれも東洋的なアニミズムのあらわれなのかも。

『私のこまどり』はアマゾンでダウンロードできるものを読みました。なぜバーネットが『秘密の花園』を書くことになったのか、創作秘話的な短い読者への手紙です。同人誌『ほんやく日和』Vol.3に入っている訳を読みたかったのですが、郵便事情のせいでまだ手元に届いてません。残念。

総じて、バーネットはイギリス人なのに、イギリス的なお話をアメリカ人に読ませてヒットさせているところが商売上手という結論にいたりました。

6歳の姪っ子にも『秘密の花園』を送って、読んでもらいました。一日で読んだって!すごい集中力。

次は、YAを離れて、台湾の『雨の島』を読みます。

読書会3 – イグアナの娘

今回は萩尾望都の『イグアナの娘』で読書会。当然、これまでの「毒親」からの流れです。

「毒親」というものを理解するため、河合隼雄の『大人になることのむずかしさ』を読んでいましたが、これがなかなかよかったです。親のほうが「自分は理解のある親だ」(ゆえに「悪いのは子どもだ」と無意識に考える)と強く思い込んでしまうので、親子関係のもつれをなかなかと解けないことがよくあるらしい。

『イグアナの娘』だけでかなり話し込みました。参加者のひとりから、24ページで大きな転換を迎えるという衝撃の意見がぶっこまれ、もうそうとしか読めなくなりました! ゴーレム効果についても教えてもらいました。この読書会までに萩尾望都のことをいろいろと調べたので、他の作品ももうしばらく読み続けたいです。

そういえば、『大人になることのむずかしさ』に、イマジナリー・フレンドといえば!の代表格的な作品として『思い出のマーニー』があげられていたので、まずはジブリ版をネットフリックスで見ました。な、る、ほ、ど。そのうち原作を読もうと思います。

次は、『秘密の花園』+『私のこまどり』。前回『あしながおじさん』で盛り上がったので、改めて古典を深読みしてみたいです。

『私のこまどり』は同人誌『ほんやく日和』のVol.3に新しい訳が入ってると聞いたので、日本の家族に送ってもらっているけど、読書会の日までに届くかなぁ。届かなかったら、別のを読みます。