6月中ばに日本で刊行された『世界を壊したビッグテックの悪党ども』ですが、あちこちで紹介&宣伝をしていただき、感想もちらほらとSNSで読みました。いや〜、ネット上のどこかで感想書いてくださる人、本当にありがたい!! ビッグテックの創業者には熱烈なファンもいるものの、ビッグテック(いや創業者たちの)の動向に不安や危機感を持っている人も多いです。ブックファースト新宿店では、「テック右派とは何か」というすばらしい棚が作られ、『世界を壊したビッグテックの悪党ども』も平積みされております。お近くの人はぜひ行ってみてください。9月4日までなので、私も日本一時帰国中に立ち寄ってみようと思っています。
ネット上で見かけた感想で、「そーだろそーだろ!」と同意するものや、深く読んでのすばらしい分析に訳者が感動するのは、ある種当たり前ですが、否定的とまではいかなくても、「う〜ん、ちょっとな…」という感想も目にしました。ビッグテックの創業者の逸話があまりに酷くてキツイ……という感想も見かけました。そこで、訳者の私が思う読みどころをいくつか書いてみます。ネタバレしない程度に、ですが。
タイトルを見ればわかるとおりの、ビッグテック(の創業者)の超辛口批判です。この批判の仕方が日本で言う「メッタ斬り」。著者は、日本だとあまりお目にかかれないタイプの女性ジャーナリスト、カーラ・スウィッシャーです。いや、アメリカでも、ここまでガンガンに言える人はめずらしい。翻訳もその辛口、すなわちカーラ節を頑張って伝えたつもりです。本を読んでくれた知人が「あんたの声が聞こえた」と言っていましたが。
著者本人がジャーナリズムで起業している成功者で、リベラルな視点からの批判をしていても、「お金に無縁なジャーナリストの批判」ではないところが違うし、彼女の見方に同意するかどうかは別にして、批判に筋が一本通っている。
カーラ・スウィッシャーが「ITジャーナリスト」という存在がまだジャーナリズムの隅っこにしかいなかった時代から、テック業界を取材しているので、批判の時間軸が長い!
カーラ・スウィッシャーのほうがマスクやザッカーバーグなどよりも先に有名になっていたので、起業家として生まれたてホヤホヤの頃から彼らを身近に直接取材するどころか、テキストメッセージをポンポン送り合う関係だった。
カーラ・スウィッシャーは女性とあって、シェリル・サンドバーグについての洞察が深い。シリコンバレー、テック業界はトップに行けば行くほど白人男性主導の世界。サンドバーグ以外にもテック業界に関わる女性は何人か登場するが、日本ではあまり知られていない。訳者の私的にいいと思ったのは、エレン・パオという女性についての箇所。超有名ベンチャーキャピタルで働いていたところ、ジェンダー差別で会社を訴えて泥沼裁判になったことで有名。この裁判をいわゆる大手メディアは会社側の視点で報じていて、当時シリコンバレーに住んでいた私も大手メディアの報道を信じてしまっていた。しかし、カーラ・スウィッシャーのメディア企業はこの裁判をつぶさに追って取材して、エレン・パオを壇上でインタビューした。そのインタビューを見たとき、はっきり言って私は自分を恥じた!
カーラ・スウィッシャーは同性愛者であることを公言していて、パートナーとの間に4人の子供を持っている。自分で出産したのは1回だけ。かつて同性愛者は家庭を持つことが難しかった。彼女の自分の生きたいように生きる様子がこの本には書かれている。最初のパートナーはオバマ政権で最高技術責任者&大統領補佐官を務めたミーガン・スミス。二番目のパートナーはジャーナリストのアマンダ・カッツ。
カーラはインターネット誕生の年に生まれているので、彼女のキャリアがネットの進展と重なっている。デジタル化の波に新聞社も揉まれた様子が、そして上に立っていた人ほど、旧態依然としたビジネスモデルにしがみついていた様子が名指しで書かれている。オールドメディアを飛び出して、ニューメディアで富を築いた起業家の話としてもかなり興味深い。
そういう経緯もあってか、カーラは『プラダを着た悪魔2」にカメオ出演している。アンディがジャーナリズムの世界からファッション界に戻ってきた話になっているから、出演依頼があったのかも。とにかく、斜陽と言われて久しい業界で働いている人には読んでもらいたい!!
カーラの長いものに巻かれない姿勢がいい。アメリカの政権批判も凄まじい辛口でする(こちらは本の中というより、ポッドキャストでやっているのだけど)。だからもちろん、アンチもいる。大変に口うるさいBBAだと思っている人も多い。でも、筋の通った批判はいつの時代も必ず必要だし、現在カーラはポッドキャスターなので、オールドメディアがなかなかやらないことをやる。たとえば、ボンディ元司法長官がエプスタイン事件の関連文書の公開をめぐってアメリカ議会の公聴会に呼ばれ、証言したときに、うしろに立っていたエプスタイン事件の被害者に一瞥もくれなかったことが批判にさらされていたときに、被害者たちをポッドキャストに呼んでロングインタビューするとか。『世界を壊したビッグテックの悪党ども』は、カーラがポッドキャスターになって成功しはじめるところで終わっているのだけど、これからどんなことをやってくれるんだろうと私は期待してる。
最後は、読みどころの紹介じゃなくなってるけども、まあいいか。
ぜひ読んでみてください。
