Never Let Me Go

7月のブッククラブのお題はカズオ・イシグロの『Never Let Me Go』だった(邦題は『わたしを離さないで』)。みんな我先に喋りだし、私などほとんど口を挟めないぐらいだった。何をそんなに語り合いたかったのか。

  • ディストピア小説と呼ぶべきか?

これをディストピア小説と呼ぶべきか、ブッククラブの人々はまずはそこが気になった。普通のディストピア小説は時代設定が未来なのに、この小説は過去の時代設定というのもその理由の1つ(出版が2005年で、ストーリーは1970年代あたりの設定)。ディストピアだと中盤まで気付かずに読んでしまうというのもある。

  • ネタバレせずに内容をかいつまんで人に伝えられない

カズオ・イシグロはノーベル賞文学賞を受賞してあまりにも有名になったし、彼の代表作であるこの本のあらすじは知っている人も多い。あらすじもまったく知らない人にこれを勧めるとき、ネタバレせずに内容をかいつまんで伝えるのは至難の業! と盛り上がった。裏表紙にある有名新聞の書評家の中にも「イギリスの田舎のとある学校で暮らすティーンエージャーの三角関係の恋愛」と濁している人がいる。読んでいる最中に「これって人間クローンの話でしょ」と言われた瞬間に、「オー!ノー!」と叫んで青ざめた顔でページを戻ってしまうくらい騙された気分になり、かなりのネタバレになってしまう。

  • 彼らは牧草で育てられた牛みたいな贅沢品?

それでもなぜあの子たちはあのように、あの環境で育てられ、反抗もせず、言われるがままに自分の運命を受け入れているのか、なぜあんなに「人間的でつまらない」恋愛をしては揉めているのかわからなくなる。じゃあ「幸せにのびのびと自然に育った人間の臓器が特級品ってこと?」「ならば、ブラックマーケットの臓器売買は最高級品なの?」と悲しいだけでは済まされない、重い課題を与えられている気がしてくる。

  • クローンや臓器提供について考えされられるとみんなが勧めていた本

ジョディ・ピコーの『My Sister’s Keeper』(『わたしのなかのあなた』:両親が第1子に臓器提供するために第2子を作って育てる話)、アイラ・レヴィンの『Boys from Brazil』(『ブラジルから来た少年:ヒトラーのクローンを作る話』)

  • 1970年代にああいうクローン技術は可能だったのか

学研都市トロントなので、ブッククラブ参加者には女性サイエンティストも多い。彼女たちは技術的な話をしていたけれど、ちょっと専門的すぎてついていけなかった。むしろ私はこの小説のティーンエージャーの三角関係物語に感動していつも泣いてしまう。クローンなのに一生懸命人間らしく、人のことが好きになったり、夢を持っていたり(「会社で事務の仕事をする」とか)、嫉妬したりして生きている。でもサイエンティストの彼女たちには「じゃあなんで逃げないの?」となる。

  • なぜ子どもたちはヘルシャムから逃げなかったのか。

ヘルシャムからも逃げなかったし、卒業してから「介護人」になってからは自分の運命もわかっていて、車も自分で運転しているのだから逃げようと思えば逃げられた。なぜ逃げないのか? 「そういう運命の子たちだからしょうがない」としか私は思わなかったので、他の人が不思議がっていることにむしろ驚いた。よりよい暮らしを求めて移民してきた人が多い国では、運命は変えられると思ってしまうのだろうか、と一瞬思ったぐらいだ。でもそんなことは口が裂けてもみんなの前では言えない。やっぱりカズオ・イシグロは、「どうして自分はイギリスで暮らしているのか、どうして日本には帰らないのか」みたいなことを常に考えてきた人のように私には思える。

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