10月のブッククラブのお題は『Persepolis』の第1部、作者マルジャン・サラトピの少女時代編だった。
このブッククラブでは、図書館で借りたり、古本屋で安く変えるような本を選ぶことが多く、ちょっと古めの話題作をみんなで読んで「今の視線で話す」のを楽しんでいる。『Persepolis』は仏語で2000年に出版。私は2007年に映画が公開されたときに見たけれど、原作を読んだのは今回が初めて。
「ペルセポリス」とは「ペルシャ人の都」という意味。作者のサラトピが、現在のイランについてどんな意見を持っているかが窺い知れるいいタイトルなんじゃない?と思う。
では、ブッククラブで話したこといくつかご紹介。
- ブッククラブで今回初めてグラフィック・ノベルを選んだけどどうだった? さらっと読めるけど、文字量は多いし、絵で伝えていることが多いよね、その辺どう思う?
これが小説として書かれていたら、歴史的背景を描写したページをかなり読まされたと思う。内容はきついのに絵はかわいいから、登場人物の心のひだを絵や表情で知るほうが気楽に読める。
- リベラルで高い教育を受けた両親の元に生まれた8歳の女の子によってイラン革命前と直後のテヘランが語られているけど、その辺どう思う? 女の子の語りを信用してもいいと思う?
イラン革命前のリベラルな(西洋的な)イラン人の家庭に育ち、テヘランのリセでフランス語で男女平等な環境で教育を受けている子だから、「いかにも」という感じが伝わった。ああいう立場の人はイラン革命をああ見るだろうなと納得できる。彼女のようなイラン人にとっては世の中が暗転して(イスラム共和国樹立)、おまけにイラクに奇襲されてイラン・イラク戦争に突入して生活が逆転してつらい時期だったはずなのに、子どもだから陽気。あのままイランにいたらもっと大きな問題を起こしかねないのも伝わった。両親は彼女には知りえない苦労や心配をしていたはずだが、その辺は大人に成長してから気付いたことなのか、客観的に書かれている。
- イラクとの戦争で、国境近くの辺境の村に住む少年たちは、主人公とほぼ同年なのに、宗教的な「死後の世界」を政府に約束されて徴兵された上、ほとんど軍事訓練も受けないまま前線に送られて死んでいくけど、その辺どう思う?
主人公の家族・親戚や周辺の大人たちが裕福で高い教育を受けていた人ばかりだったし、政治の動向も国内外のニュースをよく知っている。だから戦争が起きても国外逃亡できた。辺境の村の少年も主人公も同じイスラム教を信じていたのだし、イラン革命というのは宗教の問題というより、西洋より=リベラル=金持ちの格差問題だったのではないか。今アメリカで起きていることなどにも通じるものがある(という意見の人は多かった)。
- イラン・イラク戦争が長引く中、主人公の両親はイランにとどまって、14歳になった一人娘だけをウィーンに送ったけど、なぜ両親は国外逃亡しなかったのだと思う?
「逃げればいいのに!」と思った人が半数。「そう言うのは簡単だけど、自分の生まれ育った国は簡単には捨てられない!」と主張する人が半数で、意見は分かれた。登場人物の一人が「イランを離れて、外国でタクシーの運転手するぐらいなら、ここに残る」と言っていたのは興味深く、おそらく両親も国外に出て意に染まない仕事や生活をするぐらいなら…と思ったのかもしれないし、年老いた親や親戚を残してはいけないと、将来性のある子どもだけを外に出したのかも、と意見は一致。
…にしても、トロントには移民が多い上にあちこちの紛争にカナダ軍が派遣されているのもあって、ブッククラブの女子たちは中東問題にもとても詳しかった。
さっと読めてしまったのでイランの近代史を調べた。今のアメリカとイランの関係も日々のニュースを見ていると「敵対関係」ぐらいにしかインプットされないし、アメリカで作られた在イランアメリカ大使館襲撃事件をテーマにした映画なんかを見てもイランの事情は一方的にしか語られないので、こういう本を改めて読むと(時間をかけずに)勉強になる。